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邪剣伝説

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 別にモミジの部屋では無いのに、リィンは畏まった風に安置室の中に入った。
「…………んで、どうしてリィンがここに来るんだ。俺は一応、レアルに頼んだ筈なんだがな」
「れ、レアルさんが、この後に調べたい事があるって言ったから……」
「あいつはたまに恐ろしく自分勝手な行動に出るな」
「これ、レアルさんに渡された資料。モミジ君が頼んだんでしょ?」
「お、ありがとよ」
 差し出される薄い紙袋。受け取り中身を取り出すと、変死体で発見された騎士の資料と、この街の地図。地図のある場所には印がされており、横には名前が書かれている。律儀に死体の発見場所を地図に記してくれたようだ。
 モミジは渡された資料と地図を見比べ、頭の中で自分の仮説を組み立てる。
(…………発見された騎士の内包魔素はほぼ同程度か。これなら、場所の特定は楽だな)
「なぁリィン。この地図貰っても構わないか?」
「大丈夫…………だと思うよ。地図自体はコピーした物だし」
「じゃ、遠慮なく。これで食べ歩きする時に道に迷わなくて済むぜ」
 モミジは地図を折りたたんでコートのポケットにしまい込むと、残りの資料は紙袋に戻しリィンに返した。
「助かった。レアルに礼は言っておいてくれ。じゃあな」
「待って、モミジ君ッ」
 そくさくと――この場を逃げる様に――扉に向かった青年の背中を呼び止めた。
「少しだけ。少しだけ、お話をさせて…………」
 縋る様な幼馴染の願いに、モミジの動きはドアノブを握ったところで止まった。まるでノブを握る手が丸ごと凍りついたかのように動かなくなった。上目遣いでこちらを除く少女の眼差しは、捨てられた子イヌの様だ。
(…………俺も甘いな)
 どうにも、幼馴染との十年近くの触れ合いは、モミジの中に思いのほか根付いていたらしい。ただ声を聞くだけで、心の中に戸惑いが生じる。だいたい、あの目線は卑怯だ。アレを無視できるのは、勇者か魔王だ。
 ――――や、勇者だけか。
 はぁ、とモミジは諦めて、扉から離れた。
 やらずの後悔よりやっての後悔。それがモミジの行動理念。話を聞かずに後悔するより、話を聞いてから後悔する方を選ぶ。
「で、話ってなんだ? 知っての通り俺はお尋ね者だ。長話はできないぜ」
 コクリと、頷くリィン。その表情は、小さな嬉しさが含まれていた。
「――――お前と、俺の立場の違い、本当に分かってんのか? 俺は裏切り者の反逆者で指名手配犯なんだぜ?」
「でも、私にとってのモミジ君は、ずっとモミジ君だもん」
 ニパッと笑うリィン。
「久し振りにお話が出来て嬉しいな」
「この脳内花畑」
「えへへ」
「欠片も誉めてねぇよ」
 レアルもそうだったが、リィンも最後に合った三ヶ月前から何ら変わっていない。知恵は廻るし落ち着きもあるのだが、ほんわかのんびりした気質も相変わらずである。
「ねぇモミジ君。どうして教団を脱走したの?」
「いきなり直球で来たな」
「だって普通は気になるよ。私達は散々教団に世話になったんだもん。なんだかんだいったって、モミジ君は受けた恩を仇で踏み倒す様な人じゃないのを、私は知ってるから」
 相手が巨大な組織だから、とは言わないリィン。モミジの人となりをよく知る者の言葉だ。十年も寝食を共にしているだけはある。相手の権力や立場で対応を変える様なモミジでは無い。
「レアルにも言ったんだがな。聞いてないのか? 俺が封印騎士団に入った理由」
「うん。七剣八刀を手に入れる為なんだよね。でも、だったらどうしてわざわざ教団を裏切る必要があったの?」
「…………何を言ってるんだお前は」
 とぼけてみせたモミジを無視し、リィンは己の考えを口にしていく。
「だって、誰も扱えなかった魔導器をモミジ君が使えたって、それが罪になるわけじゃないもん。七剣八刀は貴重な宝物だから宝物庫で保管されていたわけじゃなくて、使用できる者がいなかったから保管されていたんだよ」
 相変わらず鋭いところを付いて来る、とモミジはこの場に留まったことを少し後悔した。
「七剣八刀程の魔導器を扱えるなら、モミジ君は将来、間違いなく聖騎士に任命されてたはずだよ。そうなったら、騎士団内だけじゃなく、教団内でもかなりの権力を持てる。けど、モミジ君はそれを選ばなかった。よっぽどの無茶じゃない限り何でも願いを叶えられる立場に居ながら、それを放棄した」
 リィンは昔から知恵が回る。戦闘時における瞬間的な判断力はモミジやレアルに一歩劣るが、物事を客観的視点で観察した時の分析能力はずば抜けている。
「って事はつまり、モミジ君が教団を抜けた理由って、よっぽどの無茶な目的がある訳だよね。私はそれが知りたいの」
「知ってどうするつもりだ」
「そ、それはほら、もしかしたら私もモミジ君の手助けが出来るかもしれないし」
 急に慌てだすリィン。どうやら知った後にどうするかは考えていなかったのか。ただ、咄嗟とはいえそんな言葉が出るあたりは、モミジが脱走する以前と変わりは無い。
「…………だろうと思ってたよ」
 この幼馴染は、根っこからのお人よしだ。親しいものが困っていたら、リスク度外視で手を差し伸べてくる。知恵も回るし機転もあるのに、いつも損な役回りを選ぶ。
 ――――あるいは、それはモミジに長い間触れ続けてきた影響かもしれない。
「すっとボケた事言ってんじゃねぇよこの阿呆」
「アホって言わないでよ」
「いや言うね。あのな、この状況だけでも実は相当に危ない橋だっての。こんな話誰かに聞かれても見ろ。お前さんは一発で反逆者扱いの指名手配扱いだ。よしんば反逆者扱いは逃れても、スパイ容疑でへたすりゃ教団を永久追放だぞ。お前まで教団を裏切るつもりか」
「そんなつもりは…………ただ私は」
「言っとくが、この先目的が達せられたって、俺は教団には戻れねぇだろうし戻るつもりもねぇぞ」
 リィンが最も願っているだろ事に、モミジは先んじて釘を刺した。
「俺のこれからの行為は、教団にとってはすべからく敵対行為だ。下手すりゃ、教団その物を根っこから崩壊させる可能性だってある」
「なッ…………」
「けど、お前はそれが許せるのか? 今や教団は世界に無くてはならない組織だ。教団が運営する封印騎士団がなけりゃ、魔力を持たない奴は蹂躙されちまう」
 リィンは、幼い頃に住んでいた村が壊滅し、少なく生き残ったところを封印騎士団に保護された。成長し、騎士となった彼女自身、『被災地』の救援に赴き、少なくない少年少女達を保護してきた。その行動によって、どれ程の数の命が救われたか、数えきれない。
「でも、そう言うモミジ君だって、教団の存在意義は理解しているんじゃッ」
「それを踏まえた上で、俺は教団に喧嘩を売った。それが教団を崩壊させ、不特定多数の犠牲者を生み出す結果となっても、俺は俺の目的を成す為に歩みを止めるつもりはない」
「モミジ君の言う目的を達する為に、教団と敵対しない方法はないの?」
「零じゃない。ある事にはある」
「だったら…………」
「恐ろしく時間が掛る。多分五年十年じゃきかねぇ。それこそ半世紀位時間が掛るだろうな。でもそれじゃあいくらなんでも遅すぎだ。それだけの時間、この世界が――――」
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei