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邪剣伝説

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「すこぶる好調だ。誰かさんのおかげで、身が引き締まった気分だ」 
 かくして、鋭い感触の元である細身の刀を携えていたのは、他ならぬレアルだった。
「ちょいと教えてくれ。どうやって部屋の中に入った。扉にゃ念のために仕掛けをしておいたんだが…………」
 扉を向けば、不思議な事に部屋に入る前に仕掛けた短刀は、仕掛けた時と同じ位置に挟まっていた。扉の外に人の気配があれば反応する筈だし、そうでなくとも扉を開けばナイフは落ちる筈なのに。
「お前にしては鈍いな。私は元々この部屋に居たぞ」
「…………そうか、空牙で大気断層を作りやがったのか」
 目の前に突きつけられている魔導器の刀が、仕掛けの種だ。風を操る魔導器の力で、空気圧を変化させ、蜃気楼の様に光を歪ませたのだ。更に、空気の断層を利用した気配の消去と魔力の遮断も同時に行われていたのだ。モミジが気が付けないのも道理だ。
「昼間も言ったが、随分と手札を増やしたな。気配は見逃しても魔力を見逃さない自信はあったんだがな。驚嘆に値するよ」
 数ヶ月前の彼女であったなら、見向きもしなかったような能力の扱い方。
「…………貴様に褒められても、嬉しくはない」
 本心からの称賛だったのだが、彼女には不評だったらしい。
 彼女が本来忌むべき『搦め手』に分野を広げたのは、単にモミジに対抗する為。その本人から誉められたとて、どう喜べと言うのか。
「ついでに聞かせて欲しいが。なんでこんな薄ら寒い場所で待ち伏せなんかしてたんだよ。風邪引くの覚悟で居たわけじゃねぇだろ?」
 柄を握る手や耳が真っ赤だ。モミジがこの部屋に侵入する直前に居座り始めたのではなさそうだ。三十分や一時間前程から待ち伏せをしていたと見える。
「私では無い。リィンが気が付いたのだ」
「リィンが?」
「今日の昼間、お前は一昨日に起きた変死体の発見現場に居た。たまたま居合わせただけならともかく、貴様は魔導器を使ってまで盗み聞きを企てていた。あの場所に貴様の目的があったと推測して間違いではないだろう」
 流石幼馴染、とモミジはリィンの洞察力を認めた。
「けどよ、俺は一応、一昨日の事件には関わって無いと認めたんだがな」
「だが、何も知らないとは言っていない」
 即時に返された答えに、苦虫をすり潰した様な顔になるのは、今度はモミジの番だった。
「…………痛いところを付いてきやがる。よく気が付いたな」
 肯定も同然の物言いだ。
「どれだけ貴様の戯言に付き合ってきたと思っている。この位なら想像できて当然だ」
「元同僚に深い理解があって嬉しい限りだね、いや全く」
 肩を竦めて見せたモミジ。からかっているとも取れるその仕草に、レアルはどうしてか態度を変えなかった。
どころか、切先を下ろすと、剣を鞘に納めてしまった。
「…………どーいう了見だい」
 隙を見せてはいないが、レアルは矛を収めた。この場で争うつもりはないと言っているのと同じだ。モミジとしては騒ぎを起こさないだけありがたいが、レアルの考えが読めなかった。
「…………私は封印騎士団の一員だ。貴様と言う反逆者を捕縛すると言う目的の前に、無辜の市民を守護する義務がある。街で起きている一連の事件を、一騎士として、見過ごすわけにはいかない」
「御立派な志で」
 珍しいぐらいに騎士としての本分を全うする心構えだ。
「この事件を早期に終結させるためには、遺憾ながら貴様の力が必要だと判断した」 
「捜査に協力しろってのか。俺じゃ力不足かもしれないぜ?」
「どうかな? 最初の変死体が見つかってから、一昨日ので数えて四件目だ。それだけの数が発見されているのに、未だに遺体の死因すら特定できていない。あれが他殺なのか、自殺なのかすら分かっていない。にもかかわらず、今朝方にこの街を訪ればかりの貴様が死体を確認した瞬間、貴様は何かに納得していた風に見えた」
 モミジがリアクションを起こすのを見計らっていたのか。
「少なくとも、私達がまだ知り得ていない事実を持っていると考えても良いだろう」
「それもリィンの入れ知恵か?」
「どっちでもいいだろう」
 モミジの持つ情報云々は、リィンの考えだろう。とすると、協力体制を敷く案を出したのはレアルか。押しの弱いリィンに、幼馴染とはいえ教団の反逆者であるモミジへの協力を申し出る考えは、頭に浮かんでも口には出ないはずだ。
「…………もし、断わると言ったら?」
「この場で貴様と剣を交えるだけだ」
 左手に添えられた鞘の角度が、刃を抜き放つ最適な角度へ傾く。断わった瞬間に、抜刀するつもりだ。この距離で居合抜きをされれば、避ける自信は些か心許ない。
 だが――――。
「協力は、出来ないな」
「貴様ッ」
 右手がすかさず柄に届きそうになるが、モミジは一括した。
「話を聞けッ!」
「――――ッ」
 柄に指が触れるか触れないかの寸前で、止まる。
「…………協力は無理だが、情報交換で手を打たないか?」
「それで私が納得するとでも?」
「納得してもらわなきゃならない。だいたい、こちとら指名手配犯だ。協力して捜査っつっても、一緒に現場を調べるわけにもいかんでしょうに。だったら、情報をやり取りするだけで充分だろ? ――――ま、口先だけで納得してもらえるとは思ってねぇよ。聞いとくが、お前さん、もう一昨日の死体は見たのか?」
「いや、まだだ。だが、報告だけは現場監督のモノから受けている」
「だったら、一度仏さんは拝んどいた方がいいぜ。その後に情報交換だ」  
 モミジはレアルから視線を外さぬまま、道を開ける様に真横へと退いた。彼女は何か言いたそうな顔をするが、言葉を飲み込み死体が収められている箱を覗きこんだ。
「死体の肉体は、例外なく肉体の一部が『欠損』していたと聞いていたが」 
 そこまでは、一般市民の間でも話題になっている事件の概要だ。
 けれども。
「…………聞いてはいたが、この欠損部の断面にある『白い砂』は……」
一連の発見された変死体の、その全てが躰の一部を欠損させている。更に言うなら、その欠損した部分の断面には必ず『白い砂』状の何かが密集しているのだ。砂の奥には対内部の組織が埋まる様に残っているのだが、出血等の損害は見られない。
肉体の一部欠損と、その部位断面に付着する白い砂。
この二つが、発見された遺体を『変死体』と称した理由だった。
「薬物の類では……無いらしい」
 傷の処置薬とも取れるが、だったら分離してしまっている方の部位にまで白い砂が付着しているのは不自然だ。
「お前さんの眼から見て、死因はなんだか分かるか?」
「…………一見しただけでは不明だな。肉体の欠損以外に目立った外傷がないとの報告も受けている」
 白い砂のある欠損部を除けば、肉体的に何ら異変の無い死体だ。
「貴様には、この白い粉が何なのか分かるのか?」
「そいつぁ物質内の魔素が枯渇した時に起こる『白化』現象だ」
「――――白化……現象?」
 レアルは初めて耳にする単語に、モミジに聞き返した。
「魔導器使いにとっては常識だが、この世に存在する森羅万象には『魔素』が宿ってる。『魔素』ってのはつまり『可能性の種子』って呼び方もある」
 モミジは唐突に話題を変えたが、レアルはあえて先を続けた。
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei