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邪剣伝説

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 フィアースの教団支部。地上十階建ての建造物の内、五階の地点を足音を立てずに進んでいた。灯りは窓からの星明かりだけ。そんな場所にモミジはいたりする。
 さも当然とばかりにこの場所にいるモミジだが、ここまで至る道程は並みでは無い。礼堂と言えばこの街での封印騎士団の本拠地ともいえる。内外共に魔導器によるセキュリティ関係は万全だ。
魔晶石は、内包する術式とそれを覆う外殻よって特性と機能を変じると特性がある。この特性を元にして開発されたのが魔導器だ。魔晶石が属性を・外殻装甲が機能を司る。
そこに更に手を加えれば、人の手を介さずに自動的に魔素を取り込み、術式を発動する『自動』の機能を得る。ただ、人間の手を介さずに十分な効果を得る為には、高純度で高い質量をもつ魔晶石が必要となり、自動発動の魔導器は総じて値が張る。よって貴族等高貴の者が保有する施設にのみこれらの設置が成されている。
さて、当たり前だが封印騎士団は魔導器を最も保有する組織だ。その敷地内には王族が使用する様な警備用の自動魔導器が設置されている。どれほどに手腕が優れた盗賊であって、王宮には忍び込めても、女神教関連の建物には見向きもしないと称されている。
――――モミジは、いとも簡単にやってのけた。
この階にまで、この場所まで、モミジは一度も巡回に見つからず、警備用魔導器(セキュリティ)にも引っ掛からず、影から影を渡る様にこの場所にたどり着いたのだ。
「うーん。怪盗にでも転職すっかな」
 本人は冗談で言っているが、対外的冗談では済まされない。彼の手にかかれば、王宮だろうが女神教だろうが、殆ど忍び込めるだろう。この事実が発覚すれば、モミジの目的が金銭でない事を貴族等は心の底から感謝していただろう。
 さて、モミジが金銭で無く、どのような目的を持って教団支部に侵入したのかと言えば。
「見取り図だと、この階に安置室があるんだが…………」
 手元には、教団支部の内部地図。ここ以前の階で密かに入手した物だ。
もちろん、無断借用。
「っと、まずい」
 地図と睨めっこをしていたモミジは口では慌てつつ、淀みない動きで通路の両脇に立ち並ぶ円柱に身を潜めた。数秒遅れて、通路の奥から人工の灯りと人の足音が届いて来る。
 しばらくも置かず、二人組の騎士が手に炎を灯したランタンを持ってやってきた。他の階と同じく、夜間の巡回だ。外部侵入者対策の警備体制は万全だが(本当は軽く突破されているけれども)内部にも目を光らせるのも当然の措置だ。いくら女神教の騎士であれ、やはり人間。魔が差して悪事を犯すのもありうる。教団が保有する魔導器は、中には売れば一生遊んで暮らせるほどの代物もある。
(まぁ、どうやってそんなのを売るかが問題だがな) 
 希少とはつまりそれだけ有名であるともいえる。そんな物が市場に出回れば、いとも簡単に出元が割れる。
 やがて巡回騎士の足音は時を置くごとに大きくなり、そしてまた時を置くごとに遠のいた。完全に足音と灯りが消えてから三十秒ほどを待って、モミジは円柱の陰から姿を現した。気配を探るが、付近に人がいる様子はない。
「毎度思うが、スパイ映画の主人公になった気分だな」
 騎士達が去っていた方向を一瞥し、モミジは足早に目的地へと歩を進めた。どこの支部も一つの階層に巡回の数は一つか二つ。少しの間はここら近辺に巡回は来ない。ただ、魔導器による警備があるので油断はできない。モミジは隙なくも迅速な動きで通路を進んでいく。
 ――――最後の巡回をやり過ごしてから五分も経たずに、モミジは目的地に到着した。
「死体安置室…………ここだな」
 手元の地図と、扉の上部に張りつけられた表札が合致している。
 扉を開く前に、念の為ドアノブに軽く手を触れる。指先から魔力の流れを探るが、その気配はない。部外者が明けていきなり警報が鳴り響く様な仕掛けはされていないらしい。念のために更に探りを入れてみるが、原始的な警備(トラップ)も無い。一応鍵は取りつけられているが、掛ってはいなかった。
「不用心ちゃ不用心だがな」
 ここに安置されているのは、任務の上で死亡した騎士や、殺人事件等の被害者の遺体だ。一通りの検死が行われた上、遺体が所持していた品は全て別の所で保管されている。盗人が狙うなら断然そちらだ。好んで死体を盗む様な輩はまずいない。
 モミジは音も無く扉を開くと素早く室内に侵入し、すぐさま扉を閉じた。
「そしてこいつを仕掛けてっと」
 軽く手を振ると、その手に短刀が出現する。それを扉の隙間に挟み込む。これで安置室の扉外に近づく者がいれば、短刀が反応する。
 安置室の内部は、通路よりも一回りも二回りも凍えた空気が漂っていた。死体を保存する為に冷気を放つ魔導器が設置されているのだ。安置室の壁面には、死角い切り込みが複数ありそれぞれに取っ手上の金具が取り付けられている。壁面に人一人を収められるだけの枠が埋め込まれており、金具を引っ張って引き出しと同じく取り出せる仕掛けになっている。
「…………教団は変な所が妙にハイテクだよな」
 死体の保存方法は理にかなっているのだが、モミジには少々異様に思えた。
 この世界、この大陸の文明レベルからして、女神教団の保有する『技術』は飛びぬけている。魔導器はもちろんだが、それを抜きにした理論整然とした設備が多々ある。この安置室だってそうだ。一般人ならそもそも、死体を冷やして保存するなどの概念は持っていない。人は死んだら、そのまま埋めて墓を作るか、燃やして埋めて墓を作るか。でなれば、腐ってしまう。
 ただモミジは、この光景を異様に思っても驚異には思わない。
「安置室を見慣れてるってのは、相当に病んでる気がするな」
 ぶつくさと独り言を口にしながら、モミジは死体が保存されている壁面に歩み寄った。
金具に手を掛ける前に、モミジは一度両手を合わせた。
「…………失礼します」 
そうして、死体の検分に取り掛かった。
フィアース程の都市ともなれば、殺人事件やらの発生件数も少なくはない。モミジの『目的でない死体』は多数あり、明らかに他殺のモノもある。それらに一々黙とうを捧げ、一つ一つ丁寧に死体の状態を確認していく。 
 数えて九個目の時点で、モミジは見つけた。
「――――間違いない、これだ」
 それは男の死体だった。
 顔は酷く穏やかだ。苦しみとは無縁の、まるで昼寝でもしているかのような死に顔だった。『とある一点』を除けば、まるで眠っているかの様な遺体だった。
 その『とある一点』こそ、モミジが求めていた『異点』だった。
 モミジはそっと、その『一点』に手を触れた、一掬いだけ握り締める。
「『因子』の残滓…………この街に『聖剣』があるのは確定だな。残る問題は何処に隠してるかだが……」

「動くな」
 思考を巡らせようとした矢先、首筋に冷たくも鋭い感触が刺さった。
「…………驚いたな。全然気が付かなかったぜ」
 言われずに、モミジは『ソレ』を手から解放すると、両手を降参の形に上げた。首筋から鋭い感触が離れた。こちらを向けとの、無言の命令。
ゆっくり振り返ると、そこに居たのは見知った顔だった。
「よぉレアル。調子はどうだい?」
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei