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邪剣伝説

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 超大口径の弾丸を、魔力を炸薬として発射する。リィンが愛用する魔導器銃剣。
「あれ、当たると痛いんだよなぁ」
 魔力を用いた弾丸の射出は、火薬式の銃よりも威力・射程を遥かに凌駕する。痛いどころでは済まさない。
 ただ、この場にはモミジのほかに傷付いたアズハスが居る。彼女が本気の砲撃を行えば、辺り一面は平原になる程の被害を被る。巻き込むのは必至だ。
 リィンの狙いは、アズハスからモミジを引き剥がす事だ。
「コクエモミジィィイイイイイイッッッッッ」
 遥か頭上から。太陽の光を遮りながら、鋭くも激しい気迫が降り注いだ。
「やっぱりそう来るよなッ」
 声に反応したのではなく、予め想定してた。仮に声に反応してから動いたのでは、到底間に合わなかった。両手に分厚い剣をそれぞれ出現させると、頭上で交錯させた。
 剣を構えた瞬間、凄まじいがモミジの躰に圧し掛かった。まるで大鐘を叩いたかのような轟音が響く。モミジが踏み締める地面が、月面のクレーターの様に陥没した。
「んの…………おもてぇ」
音と衝撃の正体は剣戟。モミジが構えた剣の交錯点には、上から細長い刀が噛み込んでいた。
「見つけたぞ、コクエモミジッ」
「いくらなんでも早すぎだろう」
 刀を持つレアルが、凶悪な顔付で剣を押し込む。今の一撃は、超高度から急降下した大上段。躰ごとなので上段とは言い難いが、風力と重力の後押しによる加速からの斬撃はとにかく凄まじい。特別に強度を高くした剣でなければ、二枚重ねであれ容易に折れていただろう。
「忘れたのか。私は風使いだ。アレだけ激しくやり合っていれば、風が伝えてくれる」
 風を司る魔導器の使い手は、彼女の言葉の通りに空気の流れや震動を通して離れた場所の情報を得る術に長けている。スピードと切れ味の他に、諜報能力に秀でているのが風使いの総じた特徴とも言えた。
「そうだった……なッ」
 両腕に万力を込め、二本の剣に噛み合う刀を強引に押しかえす。力任せに弾き飛ばされたレアルだったが、空中でバク転し風を纏って難なく地面に着地する。丁度、負傷したアズハスの隣だ。
「御無事ですか」
「どうだろうね……少なくとも命はあるよ」
「何よりです」
 確認を取るレアルは、一時もモミジから視線を外さない。遠くで銃を構えるリィンも、片時も油断なく彼に照準を合わせる。
「おいおい、そんな目で見るなよ。アレだ、正当防衛って奴だ」
「どの口が言うか」
「こんな口だ――――と、いかんいかん。戯言はとりあえず置いておくとして」
 モミジは剣の構えを解いた。
「どういうつもりだ」
 怪訝そうに問うレアルに、モミジは冷めた口調だ。
「どうもこうもだ。もう少し柔かく頭を使うのをお勧めするね」
「馬鹿にしているのか貴様ッ」
「だったら聞くが、俺とこの場でやり合うか?」
「それこそ、聞くまでも無いだろうッ」
 今にも飛び出さんとするレアルを制止したのは、矛の先にあるモミジだった。
「どうかな。よく考えてみな」
 混じりッ気のない殺気をぶつけられながら、モミジの喋り様はやはり冷たい。
「確かに、お前さんとリィンが組んだら、もしかしたら俺と互角にやりあえるかも知れねぇ。けど、足手まといが居るこの状況で、お前さんがたは本気を出せるのか?」
「………………ッ」
 レアルは唇の端を噛んだ。この場で足手まといと言えば、アズハスに他ならない。当の本人には自覚があっただろうが、改めて指摘され悔しげに呻いた。
「頭は冷えたようだな。俺は卑怯者なんでね。相手に弱点があれば、進んで利用するぜ。人数差がある戦いでの基本だからな」
 倒せる者から倒すと言う意味もあるが、レアルとリィンは必ずアズハスを庇う様に戦う筈。当然動きは鈍る。モミジにとっては絶好の狙い目だ。
「今日の所は引けよ。俺も、そっちが来ない限り、今日は戦かわねぇよ。明日以降、俺の前に立ちふさがるってんなら話は別だがな」
 モミジが両手の剣の柄を手放すと、それらは地面に落ちる前に形を失い魔力へと還元され、魔素となって霧散した。
「じゃな、出来ればもう会わないことを願うぜ」
 モミジは後ろ手を振りながらその場を揚々と去って行った。
 剣を油断なく構え、鋭い視線を向けていながらも、レアルはその場を一歩も進む事が出来なかった。ギシリと、何度目になるか分からない歯ぎしりが、小さく響いた。


 第三章 逃亡と陰謀と

 
 そこは、穢れ無き『聖域』と呼ばれる空間にも似ていた。
 綺麗に澄んだ空気に、美しい装飾の施された硝子天蓋からは月光が注ぐ。人工的な灯りは無く、月明かりのみよって照らされた空間は、神秘的な雰囲気に包まれていた。
 ただ、その淀みない空間に合って、幾つかの動く影があった。
「――――司教様」
 真っ白なローブを深々と被った者が、跪く。
「例の男がこの街に侵入したとの報告がありました」
 声の先、空間の最奥にはやはり白の、だが跪く者とは違う煌びやかな衣をまとった男性。
 彼は、己の目前に描かれた巨大な壁画を見上げていた。
 純白の翼をもち、笑みをたたえた、美しい女性。光を背に、世界に平和と秩序をもたらす慈愛の象徴。
《女神教(セーナ)》が信奉する、《白き女神》の肖像画。信徒の祈りを受ける、偶像。
「既に聞き及んでいる。彼の反逆者か…………騎士団はどうした」
 壁画の女神を臨む男――司教は、威風のある壮年の男だ。厳のある声が、澄み切った空気を震わせる。
「早々に発見をしたようですが、成果は皆無。偶然にも本山から来訪していた聖騎士一行が追跡に当たった様ですが、返り討ちにあった上で取り逃がしたようです」
「――――仮にも、彼の反逆者はただの一人で支部を壊滅に追いやった者だ」
「仰るとおりです」
 市井にいらぬ不安を与えない為に、モミジの反逆行動は表だって公にはされていない。しかし、事の重大さは当然であり、大陸全土にある支部の司教達には例外なく報告されている。
「始原の理器である七剣八刀を抜きにしても、その実力は測り知れん」
 司教であるこの男は、未だ見ぬ反逆者の能力を油断なく把握していた。
「まさしく。奴は従来の騎士とは別格。魔導器を無しにしたとて、並みならぬ剣技を有する強者と、実際に交戦した聖騎士が語っています」
「うむ…………」
 彫りの深い顔に、更に深く溝が生まれた。
「奴は、教団の孤児院出身だったな?」
「十の頃に天涯孤独の所を保護されたとされています。それ以前の経歴は両親血縁関係諸々不透明です」
 珍しくないとは言えないが、特筆すべき過去では無い。孤児院に入る様な子供など、大概が同じような経歴だ。この世界は安定しているが、同時に脅威を孕んでいる。
「ただ、聖騎士が悔しげにも認める実力を持ちながら、どうして中級と言う地位に甘んじていたのか。何故反逆などと言う大罪を企てたのか。現時点で奴の真意には届きません」
「我が神聖なる《女神教》に反旗を翻す以上、相応の覚悟を持っていると見て間違いないだろう。同じく、覚悟に見合うだけの目的があろう」
 何より、七剣八刀を奪うその事実の重さは、教団の歴史に触れた者ならば推し量るに難くない。あれは、『単なる宝具』では無いのだ。
「本山より情報を取り寄せてはおりますが――――」
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei