看護師の不思議な体験談 其の十三
しばらく休んでもらい、Nさんに話を聞いた。
Nさんはいつも通り陣痛室に布団を敷き、布団を囲うようにカーテンを閉めた。珍しくなかなか寝付けなかったらしい。それでも寝ようと努力する。横向きになっていると、自分を囲っているカーテンがユラユラと揺れている。
(風…じゃないよね…)
そう思っていると、目の前にあるカーテンと畳の間にある数センチの隙間が気になり始めた。カーテンの向こう側に何かが『いる』。
(気になる。見ちゃ駄目だ。気になる。いや、見たらいけない。)
(でも…、気になる。)
Nさんは横向きに寝た体勢のまま、じっと目を凝らした。
その数センチの暗闇に、ゴソゴソ動くもの。
それは…無数の『指』だった。
(…っ!!!)
気付いた時には遅かった。
その無数の指は、意思があるかのように、徐々にこちらに近づき始めた。
ピアニストの指のように、もしくはクモの足のように。
何十本もある『指』。
(ハァッ、ハァッ、ハァッ…)
自分の呼吸がやけに響く。
『指』たちが、ゆっくり、確実に、こちらに近づいて来る。
怖いのに体が動かない。
(お願い、来ないで!!)
とうとうカーテンの裾をくぐり始めた。
(!!!!)
声が出ない!そう思った瞬間、無我夢中でナースコールを押し、その後はあの過呼吸の発症で記憶になかった。
「あー、もう、怖すぎて意味分からん。寒い。」
「ホント、すみませんでした。ご迷惑おかけして。」
Nさんは回復したものの、精神的にヘコんでいる。
「私、もうショックでしばらく仕事できません。」
そんなことを話してるそばから、分娩入院の連絡が入った。
「ほら、Nさん。仕事、仕事!」
「おぉ、杉川さん、鬼ですね。」
泣きそうな表情をしている後輩。給料もらってるんだから、きっちりお仕事して下さいな。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十三 作家名:柊 恵二