看護師の不思議な体験談 其の十二
真っ暗闇の中、ソファに寝転がり、あっという間にうとうとし始めたKさん。
しばらくすると、『ぺた、ぺた、ぺた』と、足音がする。
(子ども…?素足だし…?)
足音からしてそう思った。
(あれ、これ、夢…?)
目を開けると、視界に入ってきたのは…。人形。
幼稚園児に人気の、『ぽ○ちゃん』みたいな感じの。
ぺた、ぺた。
ゆっくりと、寝転がるKさんに近づく。
(わあ、やっば。夢なら覚めて…!)
人形はKさんの目の前までくると、ぴたりと止まり、こちらをじっと見た後、口を動かした。
『私、メアリーちゃん』
布越しのようなくぐもった声。耳に聞こえたのか、頭の中に響いたのか。
(怖い…)
でも、なぜか目が離せない。じっと見つめ合っていると、そのメアリーちゃんは向きを変えて廊下を歩き始めた。体をカクン、カクンと揺らしながら。
Kさんは体を動かさず、そのままじっと見ていた。すると、メアリーちゃんは小さな手足を使って四つん這いになり、廊下にある棚の中にゴソゴソと入り込んでいった。
Kさんは恐怖のためそのまま体を動かせず、しばらく目を閉じていたそうだ。
どれくらいの時間が経ったか分からず。そして、夢か現実か分からず。
とりあえず、ナースステーションに戻ってきた、と言うKさん。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十二 作家名:柊 恵二