看護師の不思議な体験談 其の十二
今日は分娩もないし、最短ルートを通ろうとした。
未熟児室の保育器の間を抜けて、分娩室へ一歩入った。
真っ暗闇。
電気が点いていないから、当たり前なんだけど。
(なんか、いつもと雰囲気が違う…)
霊感は全くない私だけど、雰囲気の違いには気がついた。いつも以上に暗いし、寒いし、やけに静かだった。
(気のせい、気のせい)
と思いつつも、怖いので、暗闇を小走りで駆け抜ける。しかし、その瞬間、両肩が突然ずしっと重くなった。
(うわっ、やばっ!)
呼吸が上手くできず、息苦しい。
残りの力を振り絞って分娩室から飛び出した。肩も、フッと軽くなる。
(あれ?やっぱ、気のせいだったのかな。)
心臓がバクバクしているのを感じながら、陣痛室の前を通り過ぎ、器材庫へ。
器材庫にたどり着き、電気を点けた。器材庫といっても4畳くらいの広さ。物品が天井までつまれており、人一人入れるくらいのスペースしかない。電気の明るさにやっとホッとし、目当てのミルク缶を探す。
(とりあえず夜勤分だけもらって、あとは日勤でしっかり補充してもらおう。)
ミルク缶を1缶取り出したところで、突然…。
『バタン!』
大きな音に驚いて振り返る。
器材庫の扉が閉められた。
(ちょ、マジで!?)
プチパニックになる私。
こんな狭い場所に閉じ込められたら…。
怖すぎて涙が浮かぶ。大慌てでノブを回した。想像以上にすんなり開いたので、勢いで転がりそうになった。後ろを振り返るのも怖くて、廊下を走って、ナースステーションに駆け込んだ。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十二 作家名:柊 恵二