看護師の不思議な体験談 其の十二
(あ、ミルク缶が足りん)
夜勤帯に入り、新生児室の受け持ちをしていた時だった。ミルク缶を開けるとスプーン数杯分の粉しかない。新生児室内にあるストックの棚を開けたが、そこにもない。
できるだけ物品補充は日勤帯で行うのだけれど、忙しくて補充できなかったり、忘れていたりすることも多々ある。
(信じられん、面倒くさ。)
そう思ったが、とりあえず、今ミルク缶が必要。
ミルク缶や紙おむつなどは業者からまとめて病棟に届けられるのだが、新生児室には入りきらないので、病棟の一番隅にある器材庫にまとめて置いてある。
深夜2時。
(何でみんなが寝てる時間に働かないけんのかね。)
大あくびをしながら器材庫へ行くことに。
それほど大きな病棟ではないのだが、古い建物のため、動線がいまいちというか。きちんと廊下を通ると、器材庫までが意外に遠い。一番の近道は、今いる新生児室から未熟児室、分娩室を突っ切って、陣痛室の前の廊下を抜けると器材庫がある。
分娩中の患者さんや、未熟児室への面会の方がいると、その最短ルートは使えないことになっている。(使えないというか、無駄に出入りするスタッフが多くなると、患者さんが不愉快に感じてしまうので…という理由で。)
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十二 作家名:柊 恵二