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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで)

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あんたを連れ帰りにやってきたのよ。ひと月かけてやっと見つけたのに、
手ぶらで帰れる訳がないでしょーが。
私の苦労をムダにする気!?こちとら、ガキの使いでやってんじゃないのよ!」
 それを聞いて、ミミリは口を尖らせて、煽るような憎らしい口調で返した。
「そんなの知りませんよ。ツツジはこのままオメオメ帰って、
お使いも出来ない無能の烙印を押されて下さい。そうすれば、
二度と私の所になんて来なくて済むはずです。
叔父様には申し訳ないけど、ミミリはまだ帰れませんと伝えて下さい」
 それでもなお、ツツジは食い下がった。
「んなの、出来るわけ無いでしょ。私はアンタを連れて
帰るまで絶対に諦めないわよ」
「じゃぁ、私もツツジが諦めて帰るまでここをテコでも動きませんから」
「意味が分からないわよ、このバカ㍉!頑固のわからず屋!死んじゃうのよ!?」
「はい。バカ、わからず屋で結構ですよー」
「ッ---ー!」
 聞き分けのないことを言うミミリの態度に、
ツツジは怒りを通り越して、絶句した。
 ツツジは俯いて黙りこみ、ヘルメットをガシガシと掻いた。
理解されて貰えず、かなりササクレだっている様子だった。
 しばしの沈黙。
黙って憮然とお互いを見据えあう二人。
 この状況に耐え切れず、先にしびれを切らしたのはツツジの方だった。
ツツジは、顔を上げて一言一句はっきりと、凄みを込めて力強く言った。
 「…ちょっと、ミミリ。こんな時に、ふざけた冗談言わないでよね」
「フザケてません。私は本気です」
普段ならば、ツツジの剣幕と気迫に押されて折れるミミリだったが、
今回はばかりは折れなかった。
 ミミリの目は真摯なほど真っ直ぐで、強い決意が宿っていた。
覚悟ある、本気の目をしていた。

 ミミリには狙いがあった。
突き放すような言葉を投げかけて、ツツジを傷つけようが、怒らせようが。
結果として自分を連れ帰るのを諦めてくれればそれで良い。
 ツツジが無事なら自分はどうなってしまっても――
例え、死んでしまっても構わない。
だから…。
 「…だから、ツツジ。私のことはもう…」
「……黙りなさい!」
ツツジは、ミミリの言葉を遮るようにぴしゃりと言い放った。
早まらず、怒らず、粛々と淡々と、整然に。
 その声には凄味もあったが、なにより相手の心に思いを
響かせようと言う強い気持ちが感じられた。
 「いい?よく聞きなさい、ミミリ。アンタは日常を取り戻す必要があるの。
今の今まで、散々辛い目に遭ってきたんだから。
もういい加減、幸せになってもいいハズよ」
 「私の幸せ?そんなのは余計なお世話…――」と話の途中、
反射的に言いそうになって、ミミリは口をつぐんだ。
 自分が『ガーデン808』にいた頃。
学級生に虐められて、教員達に嬲られ理不尽な扱いを受ける毎日。
とうとう耐え切れなくなって、初めて泣き言を吐いた時にツツジは、
『ったく、非道い連中ね。ミミリ、ほんと辛くて可哀想な目に遭ってきたのね。
でも、黙ってやられてんじゃないわよ。そいつらに目にもの
見せてやるくらいのガッツを見せなさい。どうせなら、ぶっとばしてやれ。
私が許す。喧嘩を売るには高くつく奴だって思わせてやればいいのよ。
やれるでしょ?アンタは、強い子なんだから』と
ネットフォン越しに激を飛ばし叱咤激励してくれた。
 そういう厳しい優しさこそが、ミミリにはただの同情よりも
ずっと嬉しかったし、何より家族のような温かさを感じた。
 そうした彼女の心遣いに敬意を払わないのは、あまりにも無神経で傲慢で不遜が
過ぎるというもの。だからこそツツジの言葉に、ミミリは謙虚な姿勢で耳を
傾けようと思い直した。


 「そうじゃなきゃ、割に合わない。プランタリアに来て一時は
日常を取り戻したけど、すぐに手から零れてしまった。
私はその手伝いをしたいのよ」
 「そんな…私のことなんて、いいですよ」
「何か勘違いしているようね。アンタの為だけってわけじゃないの。
学園長はもとより、そうしないと色んな人が悲しむのよ。
アンタが旅の中で関わってきた人とかもね。そっちのほうが余計迷惑よ」
 はっとなった。ミミリは思い出した。
今までの人生で知り合った色んな人達のことを。
 自分を育ててくれた両親に、姉妹同然の親友ツツジ。
ガーデン808で嫌な教官や同期生からの虐めから自分を
守ってくれた、ナズナ・Z・スイートピー。
シャトル爆弾テロ事件で知り合った、愚痴吐きの連邦捜査官、
バージル・マクレイン。
コロニー『ハナキリン』で、仕事が見つからず行き倒れに
なりそうだった自分に宿と仕事を紹介してくれたオハナさん。
それに行く先々のコロニーで知り合った人達。
 色んな人達が関わり合い、支えあって生きている。それが社会。
自分もそうした人間社会に生きる一員なのだ。
 自分を生かしてくれた世界と社会に恩を返す為にも、生き続けなくてはいけない。
でも――
 「ツツジはなんで、私みたいな面倒な人間の為に
ここまでしてくれるんですか」
ミミリはわかっていて、わざと訊いた。
 「べっ別に…そんなんじゃないわよ。まぁー、そうね。
しゅ…趣味みたいなものよ」
口を尖らせて強気に言うツツジだったが、本当のことを言うのが恥ずかしくて、
照れ隠しをしているのがバレバレだった。
 「ふふふ」
「なっ…なにがおかしいのよぅッ!?」
 やはり、ツツジはあんな風に突き放しても、それで怒って
自分を放って帰るような薄情な子ではないのだ。
ツツジは、自分が両親を亡くしたあの日から失った平穏と日常を、取り戻して欲しいと切に願ってくれていた。
今の今まで、彼女は自分の身を慮って気遣ってくれたし、
とても献身的に接してくれた。甘えが過ぎれば、時には突き放す
ような厳しさを以て接して来ることもあった。
 ツツジ・C・ロードデンドロンは、安っぽい善意で他人を憐れんだり同情する
ような子ではない。他者に厳しく、自分には特に厳しい子だ。
それでいて、自分の身を省みず、自身を犠牲にして他者のために身を投げうつ。
いい加減な気持ちで他者に立ち入ることはしない。
やるからにはとことん本気で接する。
そういう高尚な心の持ち主なのだ。
そんな彼女に、あんな見え透いた手が元より通用するワケがない。

 「でも、私の不運は天災レベルなんですよ?私なんかがいたら…」
「問題ないわ。私が超絶な天運と幸運に恵まれてるのは知っているでしょ?
生まれてこの方、不幸なんて露知らず。
何をやっても上手く行ったし、普通ながらもアンタとは、
対称の人生を送ってきた。アンタが尽く起こすトラブルに巻き込まれて
来たけど、私はカスリ傷一つ負ったことはなかったわ。
五年前のあの時だってね。安心なさい。
アンタが受ける不運なんて、私がぶっ飛ばしてあげる。
そんな性悪の不運なんて、私の特大の幸運でプラマイゼロにしてやる。
そうすりゃ、”世は事も無し、無事平穏”。
めでたし、めでたしよ。
だから、つべこべ言わず、大人しくついて来なさいッ!」
 真っ直ぐな目で『私に全て任せなさい』と言うツツジの思い遣りが、
ミミリには嬉しくもあり、却って辛すぎた。