マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで)
アンタ今まで教育施設の集団生活で何を学んできたのよぅっ、あぁん!
虐められてたのも、アンタのその性格のせいじゃないの!?」(゜Д゜#)
「ひゃい、スイマセンッ!空気読めない子でホントスイマセンッ」(>A<;)
「わかってんじゃないのよ!むがぁーーっ、そこになおれぇッ。
スーパーお説教タイムよーー!」
「ひゃいぃぃぃーーーッ」
その後、小五分ほどツツジは、説教混じりにありったけの文句と
罵詈雑言をミミリにぶつけてから、「ほんと、ざっけんじゃないわよ」
と悪態を付いた。
喋り続けで疲れたのだろうか。肩でぜいぜいと息をしていた。
「えーと、その…。ツツジ?」
ミミリがどんな風に声をかけたものかと悩んでいると、
ツツジがひしりと抱きついてきた。
「えぐ…うぐ…」
嗚咽が混じったような息遣いの声がミミリの鼓膜を揺らした。
「…本当に、怒ってるんだから。こんなに、心配かけさせて…。
でも…やっと会えた。良かった、良かったよぅ…本当に無事で」
そう言って、ツツジはミミリの胸に顔をうずめて、ぐしぐしと咽び泣いた。
ミミリはそんなツツジを優しく抱き寄せて、憂い気に微笑んだ。
「ほんと、ごめんねツツジ、心配かけて。もう、どこにもいかない。
ちゃんと、ツツジのいう事聞くね。約束する」
抱き合った二人の体が宇宙にゆっくり。くるり、くるりと回りだした。
まるでこの広い世界に二人しかいないような。そんな時間が広がった。
「当然でしょ、バカ。約束だからね。破ったらレールガンで撃ち飛ばして
宇宙の星にしてやるんだから。無くなったポルックスの代わりにしてやる。
双子星の片割れも大喜びよ、きっと」
泣きはらした顔に、ツツジはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
それを聞いて、ミミリはぷぅと頬をふくらませた。
「やだよー。そしたらツツジ、また怒ります」
「ったく、あったりまえでしょ」
そう言って、二人は笑い声を上げた。
「…ところで、どうやって私を探し当てたの」
ミミリとしても、こればかりは気になっていた不思議なことで、
是非聞いておきたいことだった。
「レゾンリンク。同一遺伝子を持つ個体間の共感覚よ。
『マジェスターは、先天的に自身と同一の遺伝子を持つ同位体の存在を
潜在意識下で知覚することができる。双子が備える共感覚に
類似した存在知覚能力』
座学の授業で習ったはずよ。アンタと私はどういう間柄?
遺伝子上の姉妹じゃない。
ここまでプランタリアの近くに来ていれば、感知圏内よ。
といっても、光速で飛ばしてもまだ1.5秒はかかる距離があるけどね」
先ほど感じた温かさ。
あれはレゾンリンクに因るものだった。
それにしても何故、今の今まで先天的に使えるはずの
能力が使えなかったのだろう。
今までは、お互いの存在を近くに感じていたせいでレゾンリンクを使う
必要がなかったというのもある。
教育施設にいた頃も、ツツジとはネットフォンやメールでやり取りをしていて、
遠くの土地に居ながらも互いの存在を認識していた。
それが却って、発露の妨げになっていたのかもしれない。
互いの存在を認識できないほど離れ離れになって、
ようやく発露開眼することが出来たのだろう。
「でも凄いね。普通、なんとなく判るだけで、
ここまで正確に位置を当てられるものじゃないんでしょ?」
「まぁね、そこは流石の私。一工夫したという訳よ。
大まかな当たりをつけてから、センサーを数十キロの間隔で配置してさ。
下準備をしてから自前の能力でセンサーを遠隔操作して、
徐々に探索範囲を狭めて位置を絞り込んでいったのよ。
それでも、見つけ出すのに三週間かかってしまったけどね」
「おおー、さすがはツツじー。電子を操る力で、
防犯センサーから湯沸しまで一人
でこなすだけはあるよねー。一家に一人は欲しい万能家電少女、
文句なしの年間ベストセラー第一位だよー」
「人を、使い勝手のいい便利な家電製品みたいに言うなッ!」
「へぅんッ」
ツツジに額をチョップで叩かれて、
ミミリは踏まれた犬のような声を上げた。
「さて、いつまでもアホな漫才やってる訳にも行かないし、
帰るわよプランタリアに。
向こうに、高速艇を待たせてあるんだから。ほら、いこ」
「え?」
そう言って、ツツジはミミリの手を取り引っ張った。
ミミリの約一年に渡った、長い宇宙放浪生活も、
これでようやく終止符が打たれる。
プランタリアでは、叔父ユリウスが帰りを待ちわびているはずだ。
話したいことはたくさんあった。この旅で体験した色々なこと。
一年間の授業の遅れも取り戻さなければならない。
それは、大人たちが片付けてくれる問題だろう。
ともかく、また再びマジェスターとしての使命を果たす為、
厳しい訓練の日々が始まる。
これで一先ず、今回のエピソードは『ハッピー・エンド』と言うわけだ。
だが、これは終わりではない、始まりだ。
彼女達の人生は明日も明後日も、一月後も、一年後も、
そして命あるかぎり続いていく。
還るだけ。ただ、本来の日常に還るだけなのだ。
それが、それこそが人間の――
パシリ。
「…やだッ!」
拒絶の意を発してミミリは、ツツジの手を振りほどいた。
「…え?」
一瞬訳がわからず、ツツジは呆気に取られて目を点にしてしまった。
「やだ、帰らないッ!高速艇にも乗らないッ!!」ヽ(>△<)ノ
「ハァっ!?(゜Д゜#)何訳の分かんないこと言ってんのよ、アンタわッ!
ぶっ壊れたAQUA-S一丁で、帰れるわけが無いでしょーが。
こっからプランタリアまで、まだ片道45万km以上あんのよ!?」
ボディランゲージで、こっかからここまでと大げさに身振り
手振りで必死に説明するツツジ。
普通に考えれば、今の状態のミミリが帰れるような距離ではない。
それでも、ミミリには拒む理由があった。
この宇宙放浪の旅の最中、二度遭遇した乗り物絡みのトラブルは
ミミリの心に深い影を落としていた。
自分が不運を引き寄せたばかりに、事件や事故に巻き込まれ命を
落としてしまった人々に対する懴悔の念もある。
それは最早、”しこり”となって深層意識にこびり着いてしまい、
ミミリにとって、生涯払拭出来そうにない思い出(トラウマ)となってしまっていた。
「だって、高速艇だよ!乗り物だよ!?私が乗ったら事故に遭うか、
爆発するに決まってるよぅ。今回の旅で、シャトル絡みで、
二回も事故に巻き込まれたんだから。
それで…たくさん人が死んでしまったんです。
二度あることは三度あるっていいますし…」
「ミミリ、あんた…」
ミミリの目から、ぶわっと涙が溢れ出した。
くしゃくしゃになった顔で、辿々しいしゃがれた声で、それでも後を続けた。
「だから、ダメなの。行けない。やだよ、ツツジも死んじゃうよぉー…。
ツツジを危険な目に遭わせたりしたくないの。そんなのはイヤなの。
自分のせいで、また人が…。
だから、私は一緒には帰れません…。
ここに残ります。帰るなら、ツツジ一人で帰ってください」
それを聞いてツツジは、激昂した。
ミミリの両肩をがしりと掴んで、必死の形相で訴えた。
「バッカ!私は、ユリウス学園長に頼まれて、
作品名:マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで) 作家名:ミムロ コトナリ