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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで)

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そう言ってツツジはミミリの両肩を掴み俯いて、感極まった様子で肩を震わせた。

             ―― それは

 「…全く、いつもいつもアンタは…」
ミミリは違和感を感じた。
気のせいか、自分の肩を掴むツツジの手に力が入っているような気がした。

             ―― 怒りだった。

 「ひぇっ…!?」
顔を上げたツツジの形相に、ミミリは戦慄した。
 そこには、阿修羅がいた。
怒りの面を顔に被ったツツジが口を開き、一気に捲し立てた。
 「全くいつも、いつも!後先考えずに行動して、人に迷惑ばかりかけて。
いらないことして、余計な仕事や手間ばかり増やしてさぁッ!
このトラブル製造機のオッチョコチョイ!
私がどれだけ怒ってるのかわかってんの!?」
「あぅ…あぅ」
ツツジの迫力に押されて、口をあわあわさせるミミリ。
 「まだバーベナで暮らしてた頃。あの時だってそうよ。
入ってくるなって言ったのに、キッチンに入ってきて。
人がお菓子作ってるその最中にすっ転んで、小麦粉ぶちまけてさ。
しかも、丁度良くコンロに火をかけた瞬間によ。
それでアンタ、慌てて能力を使って風を起こして、
小麦粉を片付けようとしたのよね。
それで、”どうなったんだっけ”!?」
「えーと…余計に散らかってお掃除大変でした?」
「ちがう」
「履いていたパンツがなぜか脱げていた?」
「ちがうっての、てか脱げるか!頭の悪いラブコメじゃあるまいし。
それに、そん時はスパッツだったわよぅッ。
…アンタ、わざとトボケてない?」
 ミミリは至って真面目に答えているつもりだったが、
ツツジの機嫌はますます悪くなるばかり。
 それを見てミミリは『違う、違うよ』と困惑した様子でかぶりを振った。
それからミミリは、『んぇ~』と半秒ほど黙りこんで、
昔の記憶を掘り返してみた。
 「え…ぇえーと…じゃぁ、粉塵爆発でドカーン?」
普通に考えれば一番あり得なさそうな答えだった。

 「そのとおりよ!ドカーンよ、ドカーン!
銀河ハリウッド映画さながら派手にね!!」
大当たりだった。
件の状況は、見事なまでに粉塵爆発を引き起こす条件が揃っていた。
おまけにツツジの怒りも更に爆発していた。
 「よくも人ん家のキッチンを吹き飛ばしてくれやがったわよねぇ!
お蔭で暫くの間、”風を起こして小麦粉を片付ける必要もない
くらいに、非常にキッチンの風通しがよくなった”わよぅッ!」
「いやぁ、そんな。壁に穴が開いてヤバイなーとか思ったけど。
そっかー、役に立っててよかったよー。またやってあげるね(はぁと)
あいだ!」
ミミリの頭にツツジのゲンコツが炸裂した。
 「がぁーーッ!誰も礼なんていってないわよぅッ!このスカタンッ。
つーか、どこの世界に進んで自宅のキッチン
吹っ飛ばされたい物好きがいんのよ!ドMの極地か!金銭的な意味で」
「え?違うのツツジ。便利になって良かったねってことだよね?」
「ちがうわよッ、このバカ㍉。どんな解釈の仕方よぅッ」
「ん~?じゃぁ~、でもそれなら、何に対して怒ってるのツツジ。
無闇に怒るのは体に毒だって、お母様も言ってたよ?
脳細胞も減るし、人間関係も悪くなるし」
 ミミリは、本気で解らないと言った様子で、不思議そうに首を傾げた。
自分のお蔭でキッチンの環境がよくなったのに何故怒る必要があるのだろうか。
全く意味が解らない。情緒不安定なのだろうか。
 「何、怒った方がバカで大人げないみたいな空気作りしてんのよ!
『大気を操れるフリージア属だけにぃ、”場の空気”も作れますぅ~』
なんて上手いこと言ってるつもり?全然上手くないわよぅ」
「ツツじー」
「なによ?」
「つまんないです」
 コテッとツツジが”こけた”。
眉毛をへの字にして、本気で面白くないという顔をするミミリ。
 「やっかましいわ、アホ!嫌味で言ってんのよ、解りなさいよ!
さっきからね、アンタがマヌケやってキッチンを吹き飛ばした原因を
作ったことを怒ってんのよ。わ・た・し・は!」
ムキーッと、地団駄を踏むツツジ。

 「おぉ、なるほどー。ごめん、文面を素直に受け取ってたよー。
もう。ハッキリと言ってくれればいいのにー。周りくどいんだからぁ」
カラカラと笑うミミリ。
 それに対し、ツツジはすっかり毒気を抜かれたようで。
「ハァ…もう怒る気も失せたわ。さっきからそう言ってるじゃないのよ…」
 「いやぁ、その節は本当に失礼しました」
「いいわよ。…ったく、アンタって奴は、ホント天然さんなんだから。
どこをどう取ればそんな解釈出来るんだか。狙ってやってるんじゃないの。
ったくほんと…ブツブツ…」
と、ツツジはブチブチとボヤいてから、
仕切り直しの意を込めて『んんッ』と咳払いをした。
 「しかし、あの時は爆発はともかく、酸欠で死ぬかと思ったわ。
ん…まぁー、アンタが反射的に空気の幕で覆ってくれたから、
そのお蔭で助かったけどね。それには、まぁーその…感謝しとくわ」
 居丈高に上から目線で言うツツジだったが、ほんのりと顔が赤らんでいた。
素直に礼を言えばいいのに、強がっているのは本人なりの照れ隠しなのだろう。
 「いやぁ、そんな。もとは、私が悪いんだし、当然のことだよー」
「ううん。まぁー、ありがとうね」
和解の兆しが見えた。これで後はトントン拍子に丸く収まる事が収まる。
 「でー、あの後、どうなったんだっけ?」
ツツジはそれを聞いて、顔をしかめた。顔色が不機嫌に曇っていくのがわかる。
ミミリがつい”蒸し返す”ことを口走ってしまったからだ。
 「ハァ!?それマジでいってんの。ったくアンタ、本当に都合のいい頭の
作りしてるわよね。あの時は私の不注意が招いた事故ってことで、
アンタを庇って私が両親に説教くらったんでしょうが。
全く大いに、感謝してほしいわよね」
「あー…、あぁ。うん、そうだったねー。あの時はありがとう、ツツじー」
「いーえ、どういたしまして。はぁ…。もうイヤだぁ、この子…」
ツツジはげんなりして言った。

 ミミリは素直ではあるのだが、お嬢様育ちと生来の天然さが加わって、
変な所でズレている。世間の常識と物事のセオリーが今ひとつ
理解出来ていないのである。
そのくせ、上流階級の礼儀作法やマナー。
何故か科学やビジネス・経済と言った
堅苦しくて専門的なことには強い。そのチグハグさが、
普通の常識人であるツツジにはたまらなく理解に耐えず、
たまらなく無性にイラつくのだ。若干、人の心の機微に鈍感な所もだ。
そう思うと、ツツジの中で怒りがふつふつとこみ上げてきた。
 「…あぁ、もうっ!なんか思い出しただけでムカついてきたわ。
なんで、私がアンタを庇って説教されなきゃなんないのよ。
もとの元凶はアンタだってのに…。ねぇッ!?」
それはギロリと音が聞こえてきそうな程、凄まじい形相だった。
 「ひぇっ…!や…ハイ!ホントウニ、モウシワケアリマセンデシターー!?」
ツツジの激しい剣幕に圧倒されて、ミミリはつい反射的に謝ってしまった。
 「アンタのその鈍さと空気の読めなさにはホント呆れたわッ!!
その年になって物の善し悪しがこんなにも判らないなんて。