マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで)
打つ手もあるのだろうが、極限の状況がその冷静さを
マクレインから奪い去っていた。
「ふぅ。この期に及んで、また愚痴ですか?」
それがいつもの愚痴ではないと分かり、絶望に打ちひしがれるマクレインを
鼓舞するつもりでミミリはわざと煽るように言った。
「ちげぇよ。…悔しいんだよぅ、悲しいんだよぅ。
頭に来る女房だけどな、それでもアイツは…アイツと息子は
俺にとって大切な家族なんだ。見捨てることなんて出来ねぇよ…。
助けてやりたいんだ。
…頼む、ミミリ。俺に力を貸してくれ…!」
鼻をすすって涙声で懇願するマクレインに、ミミリは笑顔で応えた。
「えへへ。はい、もちろんですよ。バージルさん。だから、顔を上げてください。
作戦、思いついたんです」
作戦と言うには簡単で、爆弾の処理方法は実にシンプルなものだった。
貨物室に降りて、そこにある機外に出れるメンテナンス用扉から、
宇宙に爆弾を投棄する。機内との気圧差であとは勝手に爆弾は
機外に吸いだされる。アタッシュケースに、AQUA-S用の
推進ロケットでも付けてやれば確実だった。
二人は、機内に備えてあったAQUA-Sを拝借して、上着の下に着込んだ。
機内にエマージェンシーが掛かる五分前。
乗務員たちに見つからないよう、気取られないよう、二人は貨物室を目指した。
指定席に着席していない客がいると判るのも時間の問題。
それが発覚すれば、乗務員達は自分たちを探し回りにくるだろう。
ところがだ。
トイレの前を通り過ぎようとしたその時。
用事を済ませた乗務員二人組がトイレの扉を開けて出てきた所に、
ばったりと鉢合わせてしまった。
「すいませんっ!」
「悪く思うなよ!」
ミミリとマクレインは、当身で二人を気絶させた。
これでひと安心――と思いきや、そこに別の乗務員が通りかかり
現場を目撃されてしまった。
「なにをやっている、おまえら!」
「「!?」」
乗務員が吹いた警告用のホイッスルを合図にして、機内を上に下への
大捕物が始りを告げた。
二人は見事な連携で、爆弾が入ったアタッシュケースをパスして回しあい、
乗務員達から逃げまわった。
もうじき貨物室の扉が見えてこようとしたとき、ミミリはパスされた
アタッシュケースを取りこぼしてしまった。あろうことか、
足がもつれてその場に転んでしまった。
超人であるマジェスターにあるまじきミス。
床に転がるアタッシュケース。叫んで走るマクレイン。
転んだミミリ目がけて跳びかかる乗務員達。
ミミリは声にならない叫び声を上げた。
それと同時に、床に這いつくばったミミリの上に八人の
乗務員達が覆いかぶさり、体の自由を奪った。
――身動きできない。
(そんなここまで来て…!そんな……あぁぅ…。
ぅえぐっ…こんなことって…!)
タイムリミットは、あと三十秒を切っていた。
絶望を覚悟し、涙に濡れた目を食いしばったその時。
颯爽とアタッシュケースの前を横切り、それを拾う人影があった。
――マクレインだった。
マクレインは、アタッシュケースを抱えたまま貨物室へ突入し、
機外に繋がるメンテナンス扉を開け放った。減圧を待たず強引に
扉を開けたため、凄まじい空気の奔流が貨物室内に吹き荒れた。
格納されていた荷物が尽く宇宙へと吸いだされた。
「うぉおぉぉおおおぉぉぉぉぉーーーーーっ!
いっけぇぇぇーーーーー!!」
それに乗じて、マクレインもアタッシュケースを放り投げ、
自らも宇宙へと飛び出した。
間髪入れず――爆発。
爆発の衝撃の余波で、シャトルの船体がひしゃげ、機体に亀裂が走った。
亀裂の側にいたミミリは、乗務員達と一緒に外へと放り出された。
一瞬だけ、マクレインらしきAQUA-Sの姿を見たような気がした。
二度目の爆発。
衝撃で歪んだエンジンから漏れ出した燃料が引火し、
シャトルの右舷が爆ぜた。
その爆破の衝撃の余波を受け、ミミリは初速数千Km/sの
速度で吹き飛ばされた。
不幸中の幸いだったのは、予めAQUA-Sを身につけていたことだった。
シャトルから遠のく視界の中で、ミミリは白い船体が爆炎の渦に
巻き込まれていく光景を見た。
すべてが徒労に終わった。
事件解決に傾けた時間も、努力も。
救おうとした人々の命も。
――-BAD END-――
自分があの時、もっと上手くやれていればシャトルに乗り合わせた人達は
死なずにすんだ筈だ。バージル・マクレインには悪いことをしてしまった。
彼は生き延び、家族を無事に犯人の手から救い出せたのだろうか。
作品名:マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで) 作家名:ミムロ コトナリ