マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで)
実質、このシャトルに乗る自分たちを含む全員が犯人の人質ということだ。
マクレインは、犯人を刺激しないよう務めなくてはと、思い直した。
「…ああ、わかった。で、ルールというのは?」
『誰が質問していいといったこのダボがァッ!
話を聞いていなかったのかゴミクズめ。どちらにイニシアチブがあるか、
わかってんのかァァアッ!?』
いきなり犯人が激昂した。その怒声を聞いて
マクレインはしまったと思い、青ざめた。
「わ…わかった。すまなかった。大人しく従う」
『ふぅ、まぁいい。間違いは誰にだってあるさ。
では言うぞ。まず一つは、携帯端末を捨てること。
加えて、機内の電話で外部と連絡を取ることも許されない。
持っているなら、今この場で破棄したまえ。
おっと。捨てたふりをしたり、隠し持っていたりして誤魔化すなよ』
マクレインはそれにギクリとした。それを見越して
予備の端末を持っていたからだ。
『二つ目は、爆弾の存在を君たち二人以外の人間に知られてはいけない。
乗客は愚か、乗務員に知られてもアウトだ。
ただし、こちらがヒントを与えて解除を指定した爆弾に限る。
それ以外は見つかってもノーカンだ。
君たちの動向は、機内に設置した”目と耳”で築一監視している。
コソコソと動いて変な気は起こさないことだ。
三つ目は、こちらの連絡には必ず応えること。
十五分毎に一回連絡を入れる。
使うのはプリペイド型の端末だ。鳴ってから一分半こっきりで
バッテリーが切れるよう細工してある。そこで、爆弾と次の端末の
ありかのヒントをだす。時間内に出れなければ、アウトだ。
端末は、機内のそうとは分かりにくいところに隠してある』
(それなら、先んじて端末を発見して確保しておけば…)と思った所だった。
『あー、そうそう。先に指定された子機をあらかじめ見つけ出すのも無しだ。
無論、それもアウトだ。たまに、機内電話に繋げることもあるかな。
その時は、急いで出てくれ。つまり、君たちは十五分ごとのスパンで、
爆弾の発見もあわせて、端末の捜索もしなくてはならないわけだ。
どうだ、”楽しい宝探し”だろう?
以上、この三つを厳守すること。破れば、即”ドカン”だ。
ルールの抵触は即ちゲームオーバーに通じると心得たまえ。
ソレ以外は何をしても自由だ。ああ、そうだ。
始めの連絡用の端末は、トイレの後ろに隠してある。
早く行かないと乗務員や、他の客に持って行かれてしまうぞ』
そう言って締めくくり、犯人は電話を切った。
「あわわわ…」
「クソッ!サイコ野郎が。孤立無援な上、相棒は毛も
生え揃っていないようなガキ一人ときたもんだ。
ますます以て、”本当に最高だぜ”」
不承不承成り行きでコンビを組んだものの、捜査を進め、
困難を乗り越えるうちに、お互いの間に確かな信頼関係が生まれていた。
ルールに抵触するような場面に遭遇することも多少なりともあった。
爆弾を捜索して乗務員や乗客に訝しげな目を向けられたり、
偶然にもプリペイド携帯を見つけた客ととっ掴み合いになったり。
不審な行動を見咎められ危うく通報されそうになり、
誤解を解くのにかなり無理のある言い訳をしたりもした。
時にシャトルに乗り合わせていた犯人グループの一味の妨害に遭い、
バトルに突入したこともあった。
二人はそうしたピンチを知恵とアイディアを出し合い、
見事な連携と機転を発揮し乗り越えていった。
――とうとう、最後の爆弾を解体する所までやってきた。
爆弾は信管からの信号を受けて起爆する単純な構造だった。
爆弾と信管をつなぐ二本ある内の一本を切断すれば、解体できるという仕組みだ。
「これが九個目の爆弾。…最後の爆弾だ。慎重にやれよ。
いいな、慎重にだぞ」
「わかってますよぉー…。もう、信用してませんよね私のこと」
「ああ、すまない。今までのことを思い出すとな。こういう時に限って
妙ちきりんなトラブルばっかりだったじゃないか、特に嬢ちゃんの時だけよ。
まぁ、いい。はやくやってくれ。
犯人からの指示が無かったら俺がやるんだがな」
「はいはい。じゃぁ、いきますね」
「ああ…」
二人は、固唾を飲んだ。
ペンチを握るミミリの手元が緊張に震えた。
パチリ。
一瞬の静寂。一秒が何十分にも感じられた。
なにも、起きなかった。
「…やった……やりました。解除成功です!」
「イヤッホォーーーーゥ!やりやがった、流石だぜ嬢ちゃん。
お前は運命の女神様だ!ハハハハハ」
最後の爆弾を解除した二人は、嬉しさのあまり互いに
ハグして喜びを分かち合った。
「あははははは。痛い、お髭痛いですよぉ~、バージルさん。あは……あははは」
最後のほうでは、阿吽の呼吸で互いのやることが
理解できるようにまでなった。
バージル・マクレインとはいいコンビになれたと思う。
不謹慎だが、事件の最中。死と隣り合わのスリリングな状況を、
少しは楽しいと感じていた。自分が生きていることを強く実感した。
ただし、その結末は酷いものだった。
事件解決に費やした努力も虚しく、”全てがお釈迦になった”。
全ての爆弾の解体が終わったあと、犯人から電話がかかってきた。
『ハハハ、おめでとう。よくやったねぇ、二人とも。
素晴らしく涙ぐましい奔走劇だったよ』
「クソッタレの覗き野郎め。このシャトルを降りたら、
テメェの所に真っ直ぐ飛んでいってぶん殴ってやる。
首を洗って待っていやがれ」
『まぁ、まちたまえ。最初に、これはゲームだと言ったろう?
全ステージをクリアした君たち凸凹コンビにボーナスゲームを
プレゼントしよう』
「なんだとぉ?」
『私たちが仕掛けたあの爆弾な。信管信号以外にも、
特定の座標に到達すると起爆するギミックが施してあるんだ』
「ええーーー!?」「なにぃーーっ!?」
『あと、三分ほどで小惑星帯付近にシャトルが到達する。
そこがタイムリミットだ。
まぁ、せいぜい頑張って処理してみせることだな。ハハハハハ』
それっきり、犯人からの連絡は途絶えた。
小惑星帯付近に差し掛かる際、機内はエマージェンシーが
掛かり席からの離席が禁止される。シャトルの乗務員に爆弾のことを
報せればいいのかもしれないが、それは禁止事項だった。
犯人が仕組んだこのゲームには、ルールがいくつかあり、
爆弾の存在を当事者であるミミリとマクレイン意外に知られたら爆発――
『ゲームオーバー』と言う縛りもあったのだ。
こっそり外部や他人に報せようとしてもそれは不可能。
犯人はシャトルの監視カメラにハッキングしてこちらの動向を
築一監視している。
おまけに、旅客機会社に潜んでいた犯人の協力者の手により、
事前に盗聴マイクと波形探知センサーが機内のそこかしこに埋めこまれていた。
爆弾は非常に精緻に作られていた。位置座標起爆型のパッシブタイマーは
複雑な造りで、素人にはとうてい解体できるような仕組みにはなっていなかった。
無力化不可能。――残された時間はあまりにも少なかった。
「ちくしょう。クソッ…!クソッたれめッ!」
マクレインその場に膝を着き、項垂れた。
考えれば考えるほど、袋小路だった。落ち着いて考えれば
作品名:マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで) 作家名:ミムロ コトナリ