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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(6~8節まで)

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6.



 ミミリ・N・フリージアは、死に直面するほどの
バッドエンドに見舞われようとも、
そこから窮地を脱し、たまたま偶然にも生き残ってしまうほどの、
性悪な悪運の持ち主である。
 例え、シャトルの爆発事故に遭って、宇宙に身一つで
放り出されて漂流しようが、それは異常な非日常ではない。
ミミリにとっては日常的な異常なのだ。
 この程度の異常<イレギュラー>など、
底なしの悪運<バッドラック>の強さを誇るミミリにとってはもはや
”起こって当たり前”というレベルの些細な日常の一部でしかない。
 『ネガティブな時にこそ、ポジティブに笑顔』
今は亡き、母フィオネリアの口癖。
ミミリが金科玉条としていることでもある。
 不運なミミリが、深刻に悩まず楽観的に考えられるのも、その御蔭。
過去何度も命に関わる窮地に立たされようとも、結果として命を拾ってきた
という実績があればこそだった。

 ただし、今回に至ってはとうとう年貢の納め時かもしれない。
シャトルの爆発時、爆風の慣性でかなりの距離を飛ばされたはずだ。
旅客機会社の探索隊がシャトルの爆発地点へと辿りつく頃には、
自分はそこから数千キロのとうの彼方だ。
 広大な宇宙空間の中、人一人を見つけ出すのは
砂場に落とした砂糖粒一つを見つけ
出すよりも難しい。
先刻まで作動していた遭難者追跡用の発信ビーコンも、
電装系が故障を起こしてしまい、最早その役目を果たしていない。
 酸素は自前で生産できるものの、バックパックに収納された
非常用の食料は49日程度。
救援隊が来るまでの時間を逆算すれば本来は充分に耐えうる量ではあるが、
あてどない宇宙遊泳をするには心もとない。
 AQUA-Sは、ナノマシンの自動修復機能のお蔭でノーメンテで
一年以上稼働できるが、これではスーツの耐用限界が来る前に
栄養失調で死んでしまう。
そして今は、運命の49日目であった。

 ミミリは、この宇宙漂流の発端となった出来事――
一年前に起きたシャトル爆弾テロ事件を思い出していた。

* * *

 プランタリアに入学してから三十八日後のことである。
三日後に迫ったその日は、亡くなった両親の命日だった。
 プランタリアの眼下に映る惑星。
八番目の地球<エイス・イルシャローム>へ行こうと、ミミリは思い立った。
どうしても、バーベナの街にある両親の墓参りに行きたかったのだ。
 遠出して出かけるときは、必ず一緒に二人で
という約束をツツジと交わしていた。
不思議なことに、ツツジと一緒にいる時だけトラブルに巻き込まれる
確率がぐっと減るのだ。
 ツツジが言うに「私は”ツイてる”からね。幸運の女神様なのよ。
その前なんて、ガんガり君(アイスバー)のアタリを
三本連続で引いたんだから」
との事で、不運を引き寄せるマイナス体質の自分と、
幸運を呼び寄せるプラス体質の
ツツジが合わさることでプラマイゼロになり、
”世は事もなし、無事平穏”になるという理屈だった。
 出かけるその日、ツツジは風邪を引いて寝込んでいた。
当然、一緒に出かける予定だったが、ミミリはこの日を逃せば当分、
他所に出かける暇など作れないと思った。
 休み明けからは、第一回目の中間査定試験が始まる。
試験期間中の一週間はプランタリアからの外出を禁じられるから、
無理を押してでも行きたかったのだ。
 当日。部屋の玄関口に差し掛かったところで、
上着の裾をぐいと引っ張られた。
こっそり出かけるつもりだったが、ツツジにはばれていた。
 「まぁちぃ…なさぁ~い、ミミリ。どこに…いくつもりよぉ~…」
 「あ…そのう。ツツジ…。あぅ、あぅ。…ごめんなさいっ」
弱々しく服の裾を掴み、しがみついて制止しようとするツツジを
振り払い、寮を飛び出した。
 「うぁー…、こらぁ~。バカ㍉~…まちな…さいって…。ガクッ」
(ごめんね、ごめんね。ツツジ…!)
それが、一年以上の別離になるとも知らず。


 「ど…どうしましょう。これ…」
ミミリは、シャトル機内のリネン室で、黒いアタッシュケースの
中身を見て戦慄していた。
 その事件は、ミミリがエイス・イルシャロームに降りるため
乗り合わせたシャトルで、不審な男が妙な黒いアタッシュケースを
機内に持ち込む所を目撃したのが始まりだった。
 アタッシュケースの中身は、一見してそうとは分からないほど精巧に
偽装された小型の高性能爆弾だった。
ミミリは大気を操るフリージア属。”空気の匂い”で、
それが爆弾だと言う事を見破ったのだ。

 あれは、あまりにもフィクションじみた出来事で、
尚且つ映画の様に劇的で、とてもセンセーショナルな出来事だった。
 爆弾を仕掛けた犯人グループに家族を人質に取られて、
泣く泣くこのシャトルにやってきた連邦捜査官バージル・マクレインとの
出会い。彼は、とある事情で犯人の恨みを買っていた。
この爆弾テロ事件は、犯人のマクレインに対する復讐でもあったのだ。
 第一発見者であるミミリはなし崩し的に彼に協力することになった。
マクレインは事件に巻き込まれたことに関して、暇さえあれば愚痴っていた。
 「ったく、なんで俺がこんな目に。いっつもこうだ、クソッタレ」
(…ネガティブな人だなぁ)
 当初、しきりに愚痴をこぼすネガティブなマクレインに、
ミミリは悪い印象しか持たなかった。
当然、ポジティブが信条であるミミリと彼の相性は最悪。
反りが合わず、ことあるごとに衝突し、いがみ合っていた。
 「マクレインさん、さっきから聞いていれば愚痴や
不平ばっかりじゃありませんか!それでも連邦捜査官なんですか。
奥さんや息子さんを助けるんでしょう。
そのために、このシャトルに乗ったんじゃないんですか!?」
 「うるせぇ、ガキぃ!俺に説教たれようってのか、
このチンチクリンめ。妻とはもう別れたんだ、
おまけに俺は裁判に負けて、息子の親権はアイツのものだ。
汚い手で、俺を羽目やがったんだあの女。
なんで、あんな奴のために俺がこんな危険な目にあわなきゃいけない。
本当に、踏んだり蹴ったりだぜ。…ったく、”最高のシチュエーションだ”」

 二人がやりとりをしている所に、乗務員がやってきた。
マクレイン宛に電話が届いていると報せ、無線子機を渡すと
乗務員は後ろに下がった。
 電話の主は、爆弾をしかけた犯人グループのリーダーだった。
犯人の話によると、これはゲームとのことだった。
 『そのアタッシュの中身は見本だ。それと同じ小型爆弾を
機内に九つ仕掛けた。制限時間は二時間二十分。その時間内に全ての
爆弾を見つけ出し解体してみせてくれ。
アタッシュの中に九つの窪みがあるだろう?回収した爆弾は
そこにセットして保管して欲しい。爆弾のありかに関してはヒントを出す。
それに付いては、あとで説明をしよう』
 「つまんねぇこと言ってんじゃねぇ、さっさと爆弾の在り処を
教えやがれ。この変態野郎め」
 『そうがなるな、野蛮人か君は。そうそう。
参加するに当たって、ルールと条件が三つある。
それと、基本的に質問は許されない。こちらの言う事には黙って従え。
さもなくば、わかってるよな?』