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セオリー通りに物語

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 王女を攫って早一月。散々苛め倒したせいか、わざわざ王女を閉じ込めている塔に来てやったオレ様の言葉にも、王女は返事を返さず、窓の外から視線すら外さなかった。こんな狭い部屋に一ヶ月も閉じ込めてるわけだから、当然っちゃ当然の反応なんだが、やっと少しは囚われの王女って感じになってきたな。

 ちなみにもちろん、王女を攫ってから今までの間、王女を助けに来た勇者がいなかったわけじゃない。わけじゃないが、オレ様が基本的に待機してる大広間、つまり最終ステージまでたどり着いた奴は、0だ。王女の幽閉してある塔に登った奴も、もちろんのこと0。
 この城が魔物の多い山岳を越えた森の中にあるってのも原因の一つだとは思うが、やっぱりあれだな。城の周りに結界、罠、挙げ句見張りにドラゴン配置ってのは、ハードルが高すぎたか? 王女のいる塔も、高さとやたらきっちりした石畳の積み上げ具合からして、人間が登れるようなものじゃないしな。
 一応暗黙の了解である悪の城の難易度レベルってのは守ってるんだが、最近の勇者はどうも、貧弱なのが多いらしい。これくらい軽く超えないと、オレ様を倒すなんて不可能だと思うんだが……ひょっとしたら、すでに引退には手遅れだったのかもしれない。手加減するのは嫌だが、このまま本格的に討伐隊やらなんやらを組まれてマジで殺されるのも論外だ。新しく、もうちょっと簡単なトラップでも作り直すか……暇だし。



 結局、勇者がすべての関門をクリアしてオレ様の前に姿を現したのは、それから一週間ほど経った後のことだった。クリアしたといっても、レベルを半分ほどに落とした関門を、だが。
 結界はわざと破れやすい簡易版にしておいたし、罠は半分。ドラゴンについては、ある程度勇者の体力を削ったところでオレ様自身が退却させた。ドラゴンには限りなく不満そうな視線を向けられたが、オレ様だって不満だっつの。

 もちろん、全部ちゃんと考えあってのことだ。こんなヘボい勇者に倒されたとあっては、偉大なる悪の魔法使いどころか、その辺の小悪党を名乗ることすらままならない。別段ご先祖様を敬うタイプってわけでもないが、いくらなんでもこれでは、先代たちに申し訳が立たないだろう。

「いいか、あれがお前を助けに来た勇者だ。助けられるまで、大人しくしとけよ?」

「……」

 こっそり耳打ちするオレ様の言葉に、やっぱり今日も、王女は反応しない。始めよりはよっぽどマシなんだが、これはこれでやっぱり腹立だしいな。
 黒い鎧を身にまとったまだ若い勇者は、玉座に深々と座るオレ様の横に待機させた王女を見て、なにやら決まり文句を喚いている。どうでもいい話だが、もちろん邪魔はしない。いきなり魔法で攻撃なんて、偉大なる悪の魔法使いのすることじゃないし、あまりにも身も蓋もないからな。

「あぁ、美しい姫よ。待っていてください、すぐにそこにいる悪の魔法使いを打ち倒し、貴方様をお助けしましょう!」

「……」

 王女は何を考えているのか、せっかくの勇者様の鼻で笑いたくなるような脳のない台詞にも、完璧なノー反応だった。助けを求めるわけでもなく、応援するわけでもなく。それどころか、興味を失ったように視線を外しやがった。
 勇者も流石に唖然としたようだったが、気を取り直してオレ様に「おのれ魔法使いめ!姫の心を――」とかなんとか喚いている。こいつのこのマイペースさは攫ってきた当初からでありオレ様のせいにされるのは心外極まりないが、めげないその心意気はナイスだ。
 いやそれよりも。オレ様もこのバカ勇者もこれほどまでにストーリーに忠実にことを進めてるってのに、この王女は本当になんなんだ?やっぱり攫うなら、見た目より中身を重視するべきだったかもな。まぁここまで来れば、勇者に対する王女の反応がどうであろうが、この先の物語に支障はない。

「覚悟しろ、クラバリウス!」

「『偉大なる悪の魔法使い』クラバリウス様だ。覚えとけガキ!」

 決まり文句を言い終わったらしく、勇者がオレ様に向かってきた。オレ様は、炎の魔法と氷の魔法で応戦する。得意魔法にはもっと強力なのもあるんだが、今回はこれくらいで十分だ。今回は。

 ある程度ぶつかり合い、勇者の実力を測れたところで、オレ様はわざと勇者が無駄に振り回すその剣で、腹を貫かれた。いや、実際は貫かれた幻術を見せただけだが。
 オレ様の着ているローブは特注品だ。もっと剣技に長けた奴ならともかく、こんなガキみたいな勇者が剣を振り回すだけじゃ、穴をあけることもできない。だが今回は、とにかくオレ様を倒してもらわないと困る。実際に痛いのは嫌だからちっとばかし小細工を使わせてもらったが、そこは大目に見てもらおう。よろめき後ろに下がりながら、オレ様はあらかじめ決めていたセリフを言った。もちろん、苦しそうな演技付きで。

「くっ……思ったよりやるようだな。仕方がない、王女は返してやる。だが、これで勝ったと思うなよ? オレ様は何度でも復活する! いずれ、この世界を闇に染めてやろう!」

 奥義、いったん負けて決着は次回に持ち越し!

 多少無様ではあるが、これも物語ではありきたり、且つ実際に昔から使われてきた技だ。勇者がどうしようもなく弱かった時に限り、な。
 こう言っておいて実際にしばらくしてから復活すれば、勇者はまた冒険に旅立ち、少なくとも今よりは成長して悪に挑んでくるってわけだ。このままいつまでも王女救出で話を止めてたら、そのうち勇者候補が全員リタイア……なんてことも十分あり得る。キリのいいところで新しいステージを用意するのも、悪役の務めってわけ。まったく、目立たないところで難儀な仕事だ。

 高笑いと共に闇に消えようとするオレ様と、王女の目が合った。お前の役割は終わりだ王女様。後は元通り城の中で平和に暮らすなり、そこのバカ勇者と結婚するなり、好きにすればいい。
 いずれにしろ王女はハッピーエンド。今のところ、物語は予定通り、なんの問題もない。次に行動を起こすのは一カ月先にするべきかそれとも一年先にするべきか……勇者を成長させるための魔物や新しいステージも用意しないとな。やるべきことは山ほどある。
最後に王女に意味深な笑みを残して、俺は今度こそ姿を消した。このまま物語をセオリー通りに動かす、その準備をするために。



 あれから数日後、城の薔薇園に、わたしはいた。そこはわたしが魔法使いにさらわれる前と変わらず薔薇が咲き誇っていて、お城も、何も変わっていなかった。けれどわたしには、わたしにとっては、それはさらわれる前とはまるで違って見えた。

 あの頃、わたしは外の世界を知らなかった。だからこの薔薇園がどこよりも綺麗だと思っていたし、お城の中がどこよりもすばらしいところなんだと思ってた。けど、本当にそうだった?

 魔法使いは怖くて意地悪だったけれど、私にいろんなものを見せてくれた。いろんな魔法、大きなドラゴン、知らない植物がたくさん生えた森、見渡す限りの高い高い景色に、思わず見入ってしまうほど、どこまでも続く広い空。けれどここから見えるのは、赤い薔薇と、区切られた小さな空だけ。
作品名:セオリー通りに物語 作家名:鈴狼