セオリー通りに物語
わたしはここに戻りたかった?わからない。お城やお父様が嫌いなわけじゃない。けど、魔法使いクラバにさらわれた時、わたしは確かに……ここにはない、自由を垣間見た気がした。
お城の中では、今も勇者様が悪の魔法使いを倒し、わたしを連れて帰ったお祝いが続いている。町も、町の人たちも、みんな祝福している。祝う気持ちになれないのは、わたしだけ。
「クラバ、お願い。もう一度、わたしを――」
望んではいけない小さなわたしの願い事が、あの自称偉大なる悪の魔法使いに届いたかはわからない。その言葉は深紅の花びらと共に風にさらわれて、夕焼けの空へと消えていった。