炉黒一琉の邂逅(2)
――道標
神域へ誘う道標と言うことだろうか。
「炉黒君の考えているであろうことは、少しばかりのことに目を瞑れば正解だよ。道標というのは『道に迷わないように』と作られるものだよね? けど、こういった場所の道標は違う。『集落に禍が及ばないように』『まちがって神域に入らないように』との思いから出来たんだ。ここで言う道標となるのは、お地蔵様さ。道祖神とかね。藪『地蔵』の森と言うからには、道標があるはずさ」
ここで蜻蛉さんは、一拍置き。ゆっくりと語り始めた。
「もし、この道標が何らかの形で壊されてしまったら、壊れていたのだとしたらどうなると思う? もしあのトピ主が道標を壊してしまい、結界を――端境を抜けてしまったのだとしたらどうなると思う? これが、天狗以外の仮定の話だよ」
そう、答えは簡単だ。これほどまでに分かりやすい答えなどなかなかありやしない。
氷を室外に置いておいたら溶ける、雨が降ったら濡れる、これらと同じくらいに答えは簡単なんだ。
「――神隠しに会う、だね、蜻蛉さん」
天狗の話よりも現実的で、理論的すぎるが故に信じてしまう。仮定の話には聞こえなくなってしまう。
全ては必然的に起こり、偶然ではなくなる。
「正解だよ、炉黒君」
蜻蛉さんは、不敵に笑った。
それが何を意味するのかは、前方約十メートルにあるとある物に目を向ければ、おのずと答えが分かってしまう。
それは、闇に同調するように不気味にも思えるし、神を祀り、山を守っているのだとも思える。一層と生い茂る草木に紛れながらも、荘厳に立ちつくす者。その開いた口はまるで、全てを飲み込むように開いており、正にあれこそが現世との端境なのではないかと錯覚させる程だ。
懐中電灯で照らされたそれは、いつから手入れされていないのか分からないくらい寂れていて、荒んでいて、朽ちていたけれど。とても神聖で、気味が悪かった。
作品名:炉黒一琉の邂逅(2) 作家名:たし