炉黒一琉の邂逅(2)
――鳥居
場所と時間帯と風貌からは何面性もあるそれは、僕らを飲み込もうとそこに構えていたのであった。
すなわち――藪地蔵の森の入り口であろう。
神隠しの名所。禁足地。様々な言われがある森。
――ごくっ。
誰かが生唾を飲み込む音がしたが、それが誰なのかは分からなかった。もしかしたら僕じゃないのかもしれないし、そうなのかもしれない。
知らず知らずのうちに、懐中電灯を握り締める手には、汗をびっしょりとかいていたが、それすらも気にならないくらいの精神状態だった。
ドクドクと脈打つ自分の心臓が、いかに緊張しているのかを伝えてくれた。
「さて、行くとしようじゃないか。神隠しの始まりだよ、皆」
蜻蛉さん、鳥居を目の前に宣言した。
辺りの草木が風に靡き、ざざざざ、と不気味な多重奏を奏でていた。
まるで、僕たちを歓迎しているかのように。
いつまでも。
作品名:炉黒一琉の邂逅(2) 作家名:たし