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炉黒一琉の邂逅(2)

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 「さっき炉黒君が聞いて来た、神域、端境、の話からするよ。まず初めに神域からだ――神域、つまり言葉通りに神の宿る場所さ。例えば、神社の境内とかが代表的かな。つまりそこに神様がいるというわけさ。目には見えないし、世界も違うかもしれないけど、そこに神がいる――それが神域だよ。そして端境――つまりは狭間という表現が適切なのかな。もしくは境目か。大げさに言ってしまえば結界と言うのかな。代表的なのが神奈備、注連縄、磐座、辺りだろうね。そして、もう一つ。誰もが知っている単協があるんだよ。何だか分かるかい?」
 蜻蛉さんは僕に聞いてきた。誰もが知っている端境。神域へと誘い、現世から常世へと迷い込ませる端境。
 しばし僕は思考を巡らせ、ある一つの答えに行きついた。
 今、正に何故このような宵闇に包まれているのかを考えてみたら、すぐにでも分かる話だ。
 つまり。
 「――時間、だね」
 すると、蜻蛉さんは僕の答えに満足したかのように、
 「感嘆だよ、炉黒君」
 そう言った。
 「俗に言う、逢魔時、丑三つ時と言うやつだよ」
 丑三つ時は、『草木も眠る丑三つ時』という常套文句が有名なので知ってはいるが、逢魔時とうのは聞いたことがない。
 これも丑三つ時と似たような意味合いを持っているのだろうか。
 「逢魔時と言うのも、妖怪や幽霊と会いやすい時間なんだけどね、今回重要なのは逢魔時ではなく、丑三つ時だから逢魔時のことは忘れてくれていいよ」
 蜻蛉さんが僕の気持ちを汲み取ってくれたかのように言った。
 「何が重要なのかと言うとね、逢魔時が妖怪や幽霊に会いやすい時間帯というのに対して、丑三つ時は――神域へ誘う端境、と言われているんだ」
 そして、蜻蛉さんはうっすらと笑みを浮かべながら続けた。
 「つまり、丑三つ時は――神隠しに会いやすいんだ」
 一瞬で全身に鳥肌が立った。
 何故だか分からないが、蜻蛉さんの話を聞いていると本当に神隠しに会うようにしか感じられない。
 それもそのはずだ。蜻蛉さん事態が、わざと神隠しに会う為に時間帯も調節しているんだから。
 僕は、急に怖くなった。未知なる領域へ足を踏み入れることに恐怖しているのだ。
作品名:炉黒一琉の邂逅(2) 作家名:たし