炉黒一琉の邂逅(2)
「きゃはっ。うん、私は鬼だよー。蛹裏ちゃんは魔女。一緒だね」
「一緒じゃないぞ、鬼火ちゃん。でも、似てるかもしれないな」
「似てるのー? 同じじゃないの?」
「人間ではない――という意味では同じだから似ているんだよ」
「だったら同じだよー。同じ同じー」
「・・・・・・うぅー・・・・・・んじゃ同じだな、鬼火ちゃん」
どうやら二人の意見は合致したようだ。本当に今の蛹裏は妹の我儘を聞く姉の姿そのままだった。
「盛り上がっている所申し訳ないんだけど、いいかい?」
今までの女性的はトーンとは打って変って、気だるげな抑揚の少ない単調的な声が響いた。
蜻蛉さんだ。
「もうそろそろ、お待ちかねの藪地蔵の森だよ。覚悟はいいかい、皆」
その言葉と同時に僕の中で緊張が体を巡った。蛹裏と言えば、ウキウキと声に出して喜んでいるし、鬼火ちゃんと言えばキョトンとした表情を浮かべていた。
今更ながらだけど、ライダーはこの場にはいない。僕にはいまいち理由が分からないのだけれど、蜻蛉さんの申しつけで留守番担当だ。首なしライダーがお留守番とはなんとも不可思議な話ではあるが、仕方のない話だろう。
「そう言えば、炉黒君は神隠しの知識は何処まであるんだい?」
「何処までって、一般的かな? 突如として消えてしまうと・・・・・・そんなありきたりなことしか分からないよ」
「そうかい。それじゃ、これから本当に禁足地に赴くんだ。少し説明させてもらうよ。いいかい、炉黒君。ここからは冗談は一切ぬきだ。冗談がない話なんて退屈の他ないが、今ばっかりは仕方ない。万が一の可能性だって決して零ではない。いいかい、炉黒君。ここからは大真面目だよ」
確かにここからの話は冗談抜きで言った方がいいだろう。
僕にとって――この場にいる全員にとって神隠しは未知の存在だ。味わったことのない世界、知っていても理解していなかった世界。
勿論、今から聞く蜻蛉さんの話だって、所謂、一つの知識に過ぎない。
決して体験談を聞くわけでもない。でも仮に本当に神隠しに会ってしまったとしたら・・・・・・知識を入れておくことに越したことはないだろう。
未知に対しては、いくつもの予防線を張ったとしても損はないだろう。
僕が、生唾をごくっと飲み込んだのを合図にしたかのように蜻蛉さんは語り始めた。
作品名:炉黒一琉の邂逅(2) 作家名:たし