炉黒一琉の邂逅(2)
「でもさ、蛹裏。魔女の末裔だからオカルト的な事には興味深々って言っていたけど、魔女自体もオカルトの存在じゃないのか? 神隠しの存在よりも魔女の存在の方がよっぽどオカルトだと思うんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
蛹理は、しまった、という様に目を見開き沈黙した。どうやら僕は触れてはいけない所に触れてしまったらしい。だって『自称』魔女の電波さんなのだから。
「うぅー・・・・・・それはあれだぞ・・・・・・あれだ!」
「・・・・・・なんだよ」
「・・・・・・うぅー・・・・・・」
蛹裏は次第に思案顔を作りながら答えた。
「私に・・・・・・聞くなっ!」
そう言うと蛹裏は、頬を栗鼠のように膨らませ、口を尖らせ、そっぽを向いてしまった。その身長と日本人離れした容姿からか、どことなく小動物の様だった。
「炉黒君、魔女って何ー?」
僕の右隣を歩く鬼火ちゃんが、僕の服を引っ張りながら聞いて来た。その二つの深紅の瞳は、この闇に包まれた世界でも煌々と輝いた。普通ならば、闇の中に二つの赤い瞳が輝いていたら不気味だと思うが、鬼火ちゃんの瞳は深紅に染まった宝石のように綺麗に闇の中で輝いているのだ。
余談だが、鬼火ちゃん曰く、鬼の目というのは闇に包まれた夜でも良く見えるらしい。識別こそは少しばかり容易ではないらしいが、物の見分けや人の見分けは簡単らしい。イメージ的には、赤外線スコープを覗いた時の様な視界が常に広がっているのだろう。
それでは閑話休題。
「そう言えば、鬼火ちゃんって蛹裏と初対面だもんね。大丈夫さ、鬼火ちゃん。魔女って言っても、あくまで自称だからね。もし本当に魔女だとしたら、ただのババアさ」
「魔女は美味しいの?」
「美味しくないよ、鬼火ちゃん。食べたらおなか壊しちゃうからね。あ、でも蛹裏自体は悪い人じゃないから大丈夫だよ、鬼火ちゃん」
「分かったー。蛹裏さん、改めてよろしくお願いします」
鬼火ちゃんは、てくてくと歩いていた足を止めて、礼儀正しく九十度腰を折り、蛹裏にお辞儀をした。
それに対して蛹裏はと言うと、魔女の事を馬鹿にした僕に向かって何かしらの文句を言おうとしていたところらしく、拳を振り上げていたところだった。
しかし、鬼火ちゃんの純粋さにやられてしまったのか、振り上げていた拳を降ろし、細々と、
「よろしくなのだ」
「おい、キャラ変わってんぞ」
「うるさい、炉黒君。改めて鬼火ちゃんの可愛さを痛感したんだよ。少し黙っておきぃな」
「だから、語尾おかしいんだよ!」
「・・・・・・気にするな」
鬼火ちゃんを目の前に緊張しているのだろうか。先からやたらと鬼火ちゃんの方をちらちらと観察している。
終いには僕と立ち位置を入れ替わり、鬼火ちゃんのことをぺたぺたと触り始めた。鬼火ちゃんは、そんな蛹裏の事をきょとんと深紅の瞳で見つめていた。
「鬼火ちゃんは、本当に鬼なんだな。ここに角があるぞ」
そう言いながら、蛹裏は鬼火ちゃんの頭を優しく撫で始めた。こうして見ていると、容姿や雰囲気こそは違うが、まるで姉妹の様だ。蛹裏が姉で鬼火ちゃんが妹。
お姉ちゃんも妹が大好きで、妹もお姉ちゃんのことが大好き。そんな微笑ましい光景を見ているようで、僕の心も知らずと暖かくなって来た。
作品名:炉黒一琉の邂逅(2) 作家名:たし