炉黒一琉の邂逅
「褒め言葉だよ、褒め言葉。それよりもこんな朝っぱらからどうしたんだ?」
「それはこっちのセリフだと思うわ。こんな朝っぱらに首のない人間・・・・・・亡霊かしら? ともかく首のない人間を連れて来る方が異常だと思うのだけれどね」
確かに言われてみればそうだと思う。こんな朝方に首なしライダーと現れたら誰でも驚愕するはずだ。
「でも、そこにあまり驚かないと言うのがさすがは空蝉だよな」
「ええ、まぁこのアパートに住んでいる住人は基本的に変わり種、つまり変人しか住んでいないからでしょうね。今更首なしライダーごときじゃ驚かないわよ。そうね、心拍数が一瞬膨大に上昇するくらいかしら」
「それを驚いたって言うんだよ」
「驚いていないわ、驚愕よ」
「更にびびってんじゃねーか。」
「驚きすぎて声も出なかったって所ね。数十秒程あなた達の後ろで硬化していたわ」
「だんだん開き直ってんじゃねーよ」
とは言っても、都市伝説や怪奇現象、所謂亡霊などの類に僕が慣れ過ぎているのが異常なのだろうが。
通常、都市伝説や怪奇現象に触れあわない人間にとって亡霊は刺激が強すぎる。
「でも大丈夫だよ、ライダーはすげーいい奴だからさ」
「へーそう。私には残念ながら禍々しい存在にしか感じられないわね。相容れない存在とはこういうことを言うのでしょうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ライダーは空蝉の言葉に余程落ち込んだのだろうか。がっくりと肩を落とすどころか自慢のアメリカンバイクに項垂れていた。
「あら。まさか私の言葉に落ち込んでいるの? だとしたら申し訳ないことをしたわね。大丈夫よ、あなたは炉黒君には到底及ばないもの」
空蝉はライダーの肩をさすりながら言った。
「何が及ばないんだ?」
「虫唾が走るレベル。私は常に全力全開で炉黒君に虫唾が走っていると言っても過言ではないもの。ほら、ここを見て」
空蝉が何気なしに僕に右腕を差し出してきた。
「先から鳥肌が収まらないわ」
差し出された右手は所せましに無数の鳥肌がぽつぽつと立っていた。
「炉黒君、あなたに会ってからこの鳥肌が収まらないのよ。どうにかしてくれる?」
空蝉は、冷徹な瞳で僕を見据え冷酷な口調で僕に凄んで見せた。勿論、僕はある一つの結論に達することになる。
「なぁ空蝉。そんなに首なしライダーが怖いなら部屋に戻ればいいんじゃいか?」
明らかに僕を見て鳥肌が立ったのではなく、ただライダーに出会ってから立ってしまった鳥肌が収まらないと言った所だろう。空蝉は案外怖がりの普通の女の子なのかもしれない。
「そうね、あなたと話しているという行為に費やしている時間は、生憎私は持ち合わせていないわ」
そう言って身を翻し、部屋の方へと歩いていく空蝉の足は若干ながらも震えていたのは言うまでもない。
「さて、蜻蛉さんの部屋にでも行くか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
空蝉との一劇を終え、一段落がついた所で僕は本題である蜻蛉さんの所へ向かうことにした。
しかし今更だけどもライダーとは本当に会話という会話が出来ないな。いい奴だから全然気にはならないのだけど。