炉黒一琉の邂逅
「うーん。家もないし消えないってことか。この辺じゃまだ大した騒ぎになっていないってことは最近現れた亡霊なのか?」
僕の問いにライダーは親指でサインを作り答えた。
「成程ね。ならしょうがないか。とりあえず蜻蛉さんの所に行こうか。案内するから後ろに乗っけてくれよ」
僕がそう言うと、ライダーはアメリカンバイクに後付けしたと思われるサイドバックから黒塗りのヘルメットを取り出し僕に渡してきた。
ふと気になったのだが耳がないのにどうやって言葉を聞いているのだろうか。ま、亡霊相手に常識なんて通用しないんだしこの際気にしないことにしよう。
僕はそんな悠長なことを考えながら受け取ったヘルメットを被り、アメリカンバイクに跨った。
「ヒャホーイ、全速力で駆け抜けてやんよ!」
何て慣れないテンションで行こうと思っていたのもつかの間。ライダーはキーを回し、バイクのエンジンをかけ、はっきりとGを感じるくらいの急加速を始めた。
「ライダー、そっちじゃなくて逆方向だよぉぉぉおおおお」
僕の悲痛な叫び声は非情にもマフラーからの爆発的な排気音によってかき消されていった。
そしてこの後、約二時間に渡って僕とライダーはドライブを行った。無論、この一件以来二人乗りをする首なしライダーの都市伝説が広まって行ったのは言うまでもない。