炉黒一琉の邂逅
これしかないか。
僕はそう決意した瞬間に大きく息を吸い込み叫んだ。
「分かったよ! お前の首を探すのに協力するよ! だから襲うのはやめろって!」
僕の意には決してこれっぽっちも沿わないが、この状況を打破するにはこれしかない。
それにあてだってあるのだ。あてもなくこんな事を言うなんて僕はそこまで落ちこぼれてはいない。何て僕はお人好しなのだろう。相手が人じゃないからお人好しと言う表現が合っているかは定かではないが。
それはともかくとして僕の叫びが通じてか、首なしライダーは僕の目と鼻の先の距離でバイクを急停止させた。バイクの制動距離も操作してしまうなんて、やはり並はずれた技術力を有しているようだった。
「首を探しているんだろ?」
僕は溜息半分、安堵半分と言った声を出し、首なしライダーに語りかけた。
「さっきは馬鹿にして悪かったよ。反省してます、はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
依然として首なしライダーは沈黙を貫き通しているようだが、何と言うか先程とは打って変わって敵対心というか対抗心というか、ともかく威圧的な雰囲気は感じられないので一応は話を分かってくれたようだ。
「一応、僕の名前は炉黒一琉。よろしくな。お前の名前は?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・そうか喋れないんだったな。でも、名前がないってなんか釈然としないな。首なしライダーってのも呼ぶには長すぎるし・・・・・・まぁ、ライダーでいいか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
首なしライダーは喋らないが、右手の親指をあげているのでオッケーということだろう。案外いいやつなのかもしれない。亡霊や妖が全て悪という訳ではないらしいから、ライダーは多分きっといい奴の部類に入るのだろう。とにかく物分かりの良さが異常だ。
「しかし、何で僕の生活はこんなにも非日常的なんだ」
僕は溜息混じりに呟いた。
対してライダーは理解が出来なかったのか、首を傾げるならぬ肩を傾げて不思議がっていた。なんとも愛嬌のある仕草だ。
「とりあえずライダー。エンジン切ってくれ。マフラーの音うるさすぎだよ。それと、落ち着いたらちゃんと車検対応の静音マフラーに交換しろよ。大人な静けさってのもカッコイイぞ。いかに主な行動が夜中だろうとその音は目立ち過ぎる」
僕にそう言われたライダーはがっくりと肩を落としながら、親指で了解のサインを作った。やはりこの首なしライダーは物分かりが良いみたいだ。
ライダーがバイクに差し込まれていたキーを左に回した。
すると、先程までの排気音が消え辺りに静寂が訪れた。まるで先程までの逃走劇が嘘のように静かな夜だ。
「まずさ、ライダーには家があるのか? 亡霊だから自然と夜に現れ、朝日が来たら消える、とか?」
これは結構重要な問題でもある。ライダーは、その首がないというこれでもかというくらいに人間離れした風貌をしている。まさか白昼堂々この風貌で出歩く訳にはいかない。頭がないのだからフルフェイスのヘルメットを被るわけにもいかないだろうし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ライダーは落胆を示すかのように肩を落とした。