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炉黒一琉の邂逅

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 「・・・・・・はい?」
 どういう理論か、どういう理屈でバイクが跳躍したのかは分からない。しかし現にバイクは跳躍したのだ。鉄の塊が何の凹凸のない道で、空に向かい高々と。
 僕は唖然としバイクを見上げた。何てエキサイティングな技なのだろう。もしこの技を僕以外の人間が見たとしても、僕と同等の気持ちに陥るはずだろう。もしくはそれ以上か。
 それほどまでにそのライダーは華麗にバイクごと跳躍させたのだ。
 見惚れているのもつかの間、跳躍したバイクは僕をめがけて自由落下を始めていた。無論、直撃したら即死だろう。車体重量約二百キログラムが重力加速度を九・八メートル毎秒毎秒を加えて落下してきているのだ。衝撃は計り知れないし、想像もできない。
 「怪奇現象は何でもありなんですね!」
 僕は即座に予定を変更、真横に跳躍せずに真正面に向かってダッシュをかました。そしてすぐさま進行方向へ向けてダイブした。地面はコンクリートで出来ているので、やる気が失せるほどに凄まじい痛みが全身を襲ったが、バイクに潰されるよりは数百倍マシってものだろう。
 僕は頭を振い、気を立て直すと同時に軋む身体を無理矢理立ち上がらせ、そのまま全力疾走を始めた。今いるこの路地は細い一般道なのでいかにバイクと言えども進行方向を逆に帰るのはそれなりに時間がかかるはずだ。その間に全速力で脇道へ走れば多分逃げ切れるだろう。民家に助けを求める訳にはいかないから、ひとまずここは逃げ切るしかないのだ。
 僕は首なしライダーの状況を確認しようと、全力で走りながらも後ろを振り返った。この動作で走るスピードが少し遅れようと大した差にはならないだろう。たかがコンマ数秒だ。それよりも状況確認の方が大事なのだ。
 後ろを振り返った僕の目には信じられない光景が広がっていた。
 アメリカンバイクが前輪を空中に浮かせていたのだ。地面とほぼ垂直になるくらいまでに。俗に言うウイリーと言うバイクの技だろう。しかし、ウイリーという技をアメリカンバイクで行うなんて初めて聞いた話だ。
 しかも、ウイリーを利用しての転回ときた。前輪を浮かし、後輪の駆動のみでバイクの進行方向を変える。バランス、重心、摩擦係数、全てが紙一重に一致しそれを高度なテクニックで実現させる。それもアメリカンバイクで。
 「・・・・・・はは。生前はさぞかし有名なライダーだったんでしょうね!」
 僕がそう叫び終わった時には、首なしライダーはバイクの転回を終え、僕を正面に見据えていた。首から上がないのだから見据えていたという表現はどうかと思うが、ご了承願いた。むしろこの状況下で語り部に徹している僕を称賛してほしいくらいだ。
 僕の後方で女性の金切り声にも似た甲高い音が響いた。バイクが急発進する合図だ。
 脇道までは数メートル、バイクとの距離も数メートル。
 バイクのマフラーから発せられる排気音が嫌というくらいに近付いてくるのが分かる。
 この調子じゃ脇道に入った所で、首なしライダーに追いつかれるのは目に見えている。
 あんな現実離れしたバイクテクニックを持ち合わせている現実離れした存在には、僕を手玉に取ることなんて容易いことなのだろう。
 首なしライダーと言えば、ピアノ線によって首を切り落とされたライダーの亡霊というのが一般的であろう。もしそうならば、ピアノ線を見せれば相手はトラウマから逃げ出してしまうかもしれないが、生憎そんなものは持ち合わせていない。バイクから逃げ去る脚力も持ち合わせていないし、バイクを受け止める怪力だって持ち合わせていない。
 さて、どうしたものだろうか。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
作品名:炉黒一琉の邂逅 作家名:たし