炉黒一琉の邂逅
「さて、どうしたものかね」
僕は、右手を顎に添えてわざと思案顔を作り思考を巡らすふりをした。
「こういう時の対処法って何なんだろうな」
逃げるって言っても相手はライダーだから、すぐに追いつかれるだろうし。会話をするにしたって相手は沈黙を貫き通している。
こういう現状を『からまれる』と言うのだろうか。物凄く迷惑な行為だ。人の人生に許可もなく、ただ迷惑に介入してこようなんて言語道断。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その時、ライダーが右手で握っていたアクセルを勢い良く回し、エンジンを高回転領域へと導いた。思わず耳を塞ぎたくなるような爆音が辺りを包む。未だにクラッチは切っているのであろう。アメリカンバイク自体はその場を動いていない。所謂、吹かしている状態なのだろう。いや、この場合は挑発と言うべきだろうか。でも、アメリカンバイクが走り始めるのは時間の問題だろう。
次第にバイクのマフラーの爆音にタイヤが地面を噛まずに空転を始める音が混ざり始めた。所謂、あれだ。スタート直前、または直後の合図というわけ。
「・・・・・・おいおい、やっぱりそうなるんですか! 少しは会話してよ!」
僕は、そう叫んで後ろを振り向き全速力で逃亡を開始した。けれど、そのライダーが僕と会話をするという要望を受け入れてくれることは金輪際ないだろう。
先程言わなかった僕を取り巻く現状、その五。
このアメリカンバイクのライダーには首から上が存在していないのだ。首の付け根から頭部にかけて、本来あるべきものがない。
まさに正真正銘の首なしライダーである。
「死ぬよ? そんなバイクで突進されたら死んじゃうよ!」
僕は全速力で走りながら後ろを振り返った。するとそれを合図にしたかのように首なしライダーがバイクを急発進させた。
「嘘でしょ!?」
人類が出せる平均時速の限界は時速五十キロと呼ばれているんですよ? かの有名なオリンピック金メダリストで瞬間最高速度が時速四十キロと呼ばれているんですよ?
科学力に勝てるわけがない。アメリカンタイプは、スポーツタイプよりもトルクが低いなんて救いにもならない。
『バイクVS一般的人間』が勝利を収める可能性なんて零と断言してあっていい。
僕は意を決して走るのを止め、バイクの方へと向き直った。
徐々に速度をあげて迫りくるバイク。さながら闘牛士の気持ちになった気分だ。もしこれが闘牛士の気持ちなのだったら、僕は金輪際闘牛士という職業を夢見ることはないし、目指すこともないだろう。僕には絶対に向いてない職業だ。
「これで死んだら呪い殺してやるからな」
僕はバイクを引きつけて、衝突する寸前に真横に跳躍しバイクを避けると言う選択肢を取った。そうして、バイクをかわし少し走れば脇道も小道もある。そこまで逃げ切ればなんとかなるだろう。
僕は真横に跳躍する体制へと入った。もうバイクはすぐそこだ。マフラーの爆音なんて気にならない。気にするのはバイクとの距離感のみだ。
と、その時。
バイクが跳躍した。