炉黒一琉の邂逅
――パシャパシャ
その時、何故か閉じていた瞼が連続的に強力な光で照らされ、それに伴って連続的な乾いた甲高い機械音が響いた。
「炉黒君の寝顔ゲット」
そして蜻蛉さんの愉快染みた声。
「はい?」
僕は閉じていた瞼を反射的に開いた。するとそこには、見るからに高級感に溢れている黒光りをしている物体が存在していた。
――パシャパシャ
もう一度乾いた甲高い機械音が鳴り、それと同時に強烈な光が僕の瞳を直撃した。
その一瞬で僕は黒塗りの物体が何なのかを理解した。一眼レフカメラだ。
「何・・・・・・してるんだ?」
「何って決まっているじゃないか。炉黒君の寝顔を撮っていたんだよ。炉黒君はなかなかに男前だから良い被写体になると思ってね」
蜻蛉さんは覗いていたファインダーから、ひょっこりと顔を出しながら言った。
そして、実に君の悪いことに蜻蛉さんは不敵な笑みを浮かべるのでもなく、満面の笑みを浮かべるのではなく、その表情は真顔だった。すなわち真面目な顔をしていたのだ。多分頭がおかしいのだろう。何をとち狂ったのか。真顔で男の寝顔を撮るなんて、当の本人の僕からしたらただ単純に気持ち悪いだけである。
「って言うのは嘘で、鬼火ちゃんにお願いされたんだよ」
「なら許す。むしろもっと色んな表情を作ろうか? グラビアアイドルみたいに」
なんていっても僕は鬼火ちゃんラブなのだ。いかに僕の隣で〈そんなこと言ってないよ?〉と鬼火ちゃんが呟いていようが何しようが関係ない。蜻蛉さんが言ったって言うんだから言ったのだ。
「感嘆だよ、炉黒君。でもね炉黒君、俺の気持ちになってくれよ。君が被写体なんて拷問に近い気がするよ。俺個人としては、幼女を・・・・・・少女を撮りたい・・・・・・いや、美少女を撮りたいところなんだ」
「もういっそのこと包み隠さずに自分の趣味を露呈させちまえよ」
「あぁそうさ。俺はロリコンだよ、炉黒君」
「あぁそうかい」
言わせてみたはいいけど、改めて聞いても何も始まらない気がするのは僕だけだろうか。
そう言えば神隠しの練習という話は何処に言ってしまったんだろうか。元々神隠しの練習なんて無かったのだろうか。量子分解のどうこうとやたらと難しい話をしていた気もするが、こちらと夢と現実の狭間を行き来していた訳だから、少しも記憶に残ってなどいない。
「感嘆だよ、炉黒君。それが正解さ。神隠しの練習など初めからありやしない。これは炉黒君の寝顔を撮る為だけに用意された作戦という訳だ。実に滑稽だよ」
はたしてこの件は必要だったのだろうか。僕がこの物語の語り部であるからには、貴重な文字数を考慮しながら語らなければならない。しかし、この物語の主要人物がこうと来た。