炉黒一琉の邂逅
「それはそうと、炉黒君。今の件に関しては冗談だけど、神隠しについては本当だ。事実なんだよ。それだけは肝に銘じていてほしい。神隠しに会う練習なんてない。それは本当に突然訪れるんだよ。ふざけた後で申し訳ないんだけどね」
蜻蛉さんは先程とは打って変わって、声のトーンを一段階低くし、僕の目を真正面から見ながら言った。それに伴い部屋を取り巻く雰囲気も一段階重くなった。どこかしら口を開きづらい雰囲気にすら感じる蜻蛉さんがなかなか話を始めようとしないので、僕から話すことにした。
「・・・・・・藪地蔵の森だっけ? そこにはいつ行くの?」
「そうだね、今は・・・・・・早朝の五時半か。今から各自で睡眠を取って夜にでも出ようか。藪地蔵の森には、翌日の丑三つ時までには着きたい所だからね」
早いな。行動がとてつもなく早い。しかし、善は急げというやつだ。行く、と決めたらすぐにでも行動を起こした方が良いのだろう。神隠しに会いに行くのが善とは思えないけれど。
「オーケイ。それじゃ、夜にでもまた来るとするよ」
「よろしく頼むよ、炉黒君」
この後、僕が迫りくる睡魔に負けて蜻蛉さん宅で寝てしまったのは言うまでもない。
炉黒一琉の邂逅(2)へ続く