炉黒一琉の邂逅
「炉黒君の声がするー」
その時、蜻蛉さんの背後からハイトーンの女の子の声がした。
「わー、本当に炉黒君だ。おはよう」
そんな可愛げのある言葉と共に、蜻蛉さんの背後から顔を覗かせた女の子。空蝉にも負けず劣らない艶のある黒髪、それでいて女の子らしい線の細い髪の毛。大きく開かれた二重瞼から覗く深紅に染まった瞳。その深紅に染まった瞳が紛れもない人ではない存在ということを証明している。
「鬼火ちゃん今日も相変わらず可愛いね」
僕は身長が百四十センチ強の鬼火ちゃんの身長に合わせ、腰を落とし、頭を撫でてあげた。その時に手のひらに当たる二つの角が更に鬼であるということを証明しているのであろう。角と言っても禍々しく存在しているわけではなく、本当にオプションというかなんというか、ともかくとしてその角ですら可愛らしくちょこんと備わっているのだ。だから全然怖くもないし禍々しくもないし、気にもならない。これも含めての鬼火ちゃんなのだ。
「炉黒君、可愛いって何?」
鬼火ちゃんがキョトンと不思議そうにしながら言った。
そう言えばまだ可愛いって鬼火ちゃんに教えてなかった気がするな。
「可愛い手言うのはね、鬼火ちゃん。鬼火ちゃんみたい子のことを言うんだよ」
「えー、分かんないよー」
本当に出会った頃の鬼火ちゃんは何も知らなかった。人の言葉すら知らなかったし、その時人間を食べているということも知らなかった。
その時は正直言って怖くて逃げだしてしまいそうだったけど、なんだか放って置けなくて連れて帰ってしまったのだ。勿論、後悔などしていない。むしろ、あの場でほうって置いてた方が後悔していたと思う。今では本当に鬼火ちゃんが妹の様な存在で、たまらなく可愛い。ロリコンとかそういうのじゃなく本当に可愛い。
「炉黒君、ロリコンって何?」
「てめー! 鬼火ちゃんに読心術なんて教えんじゃねーよ!」
「ほんの一興だよ、炉黒君」
「その一興が僕にとって一驚でいて一凶なんだよ!」
この話は置いておいて、鬼火ちゃんは非常に吸収力が凄い。白すぎるが故に何色にでも染まると言った感じだ。むしろ透き通っていると言っても過言ではないだろう。
鬼火ちゃんが決して頭がいい方ではないけれど、本当に吸収力があるのだ。現に僕が何か一つ教えれば鬼火ちゃんはすぐにそれを吸収してしまう。
だからあれから人を食べてはいないし、人を食べたいなんて一言も話さないし、思ってもいないだろう。時々その辺にある物を食べようとしたりしているが、一回教えればもうそれを食べようとはしない。