炉黒一琉の邂逅
「鬼火ちゃんもライダーのこと気に入ると思うよ」
その鬼の子供の名前は鬼火ちゃんという。僕の鬼と言ったら鬼火だろ、とう安易な考えから命名された訳だが鬼火ちゃんは元より名前がなかったらしいので、それ以降鬼火ちゃんで定着している。
「俺も決して暇じゃないんだよ、炉黒君。君は俺の事を暇だと勘違いしているかもしれないが決してそうじゃない」
「・・・・・・ごめん」
珍しく蜻蛉さんが表情を変えずに無表情で僕に語りかけて来たために思わず僕は謝ってしまった。
でもこの場合は蜻蛉さんが正しいのだろう。数日前には血まみれの鬼の子を連れて来て、今日に至っては首なしライダーだ。いかに都市伝説や怪奇現象に纏わる事件を解決するのを仕事としている蜻蛉さんと言えど、僕の行動に苛立つのは分かる。蜻蛉さんは偽善者じゃないのだ。慈善事業をしているわけでもない。
「いいかい、炉黒君。もう一度言うけど俺は決して暇じゃないんだよ」
「うん、悪かった。ライダーのことは僕自身でなんとかするよ」
「俺は時間を弄んでいるんだ」
「時間と何を競っているんだよ!」
「時間を持て余しているって言っても過言ではないね」
「それが暇って証拠だよ?」
「まんまと嵌められたね、炉黒君。何故人間は、慣れ親しんでいるはずの友人ですら通常と違う態度を取ると怖気づいてしまうんだろうね。相対する人間は違わないはずなのに。まぁ、それは置いておいて炉黒君。僕が首なしライダーなんて言う有名すぎて不可解で不可思議な亡霊を放っておくわけがないじゃないか。この体験は俺自身にとっても貴重な体験だよ。それにこのまま首がないままじゃあまりにも可哀想だよ。君に全てを託すなんて、さすがに俺もそこまで非人道的じゃないからね。炉黒君にはいつも世話になっていることだし、協力するよ」
「ありがとう、蜻蛉さん。良かったなライダー、これで首から上を探す兆しが立ったぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕からの吉報に相変わらず押し黙って佇んでいるライダーは、親指を上げ僕にサインを送っていた。
表情こそないから知ることが出来ないが、ライダーが纏う雰囲気は今までとは少し違く、喜色が全面的に前へ出ているような気もする。
こうして言葉なしでも生前にライダーが何故首から上を失ってしまったのかが分からない。本当にいい奴ということを念頭に置けば決して人の手にかけられる――つまり殺されることなんてないだろう。何も根拠はないが、殺される訳がないと思う。
でも亡霊として世に残っているということは、何かしらの未練がこの世にあることには変わりはない。