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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで)

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それは常に男性の一歩後ろを歩くという、
男を建てる日本女性の奥ゆかしさと、礼儀作法と言うものなのだろう。
気品を感じる佇まい。歩き姿一つとっても、実に様になっている。
彼女も、凛やヒューケインと同じく、リミテッドテンの一人だった。
 金雀枝栞の姿を見て――正しくは、その雰囲気に圧倒されて、
ミミリは体を固くした。
「あ、ど…どうも、は…はじめまして生徒会長。ミミリ・N・フリージアです」
憧れの人を目の前にして緊張でこわばった彼女の声は、
錆びついて軋んだオルゴールのようだった。
 「はじめまして。ご丁寧にありがとうございます、ミミリさん。
後期ニ年生の金雀枝栞です。
ユリウス様の姪である貴方と言葉を交わせるなんて光栄ですわ。
金雀枝(属性コード)でも栞とでも、お好きなようにお呼びください」
「あ…は、はい。では、え…金雀枝さん…会長」
しどろもどろするミミリだったが、栞はそれを特に可笑しく笑うこともせず、
慈しむような微笑を投げかけていた。
 
 金雀枝栞とは、色々と話しをしてみたかったが、
ミミリにはどうしてもユリウスに聞いておきたいことがあった。
それは、凛が先ほど言っていた叔父の願望――
 「所で、叔父様」
「なんだい?」
「なんで皆さんわざわざ水着姿なんですか?
私までいつの間にか水着姿ですし」
「え?」
ユリウスの顔がひきつった。
と同時に――

 パキリ。と、

場の空気が凍った。

 (てめぇ、それをわざわざ聞くのかよッ)
(ミミリ・N・フリージア。恐ろしい子だ…!)
(?)
(あらあら、ウフフ)
 ヒューケインと凛が、戦慄の表情を浮かべていた。
ツツジは、訳が判らないという顔をしていた。
金雀枝栞は、やはり笑顔だった。
明らかにユリウスの『あの』願望を知って、聞いているものだと
周囲(ツツジを除く)は理解していた。

 ――『いつか邸宅のプールサイドに沢山の水着美女を招きたい』。
ミミリには、にわかに信じられなかった。
 優しく厳粛な叔父にそんな、そんな『アレ』な趣味があるとは思えず、
それが真偽であるかどうか確かめたかった。
 それが事実ならば、自分は憧れの人である叔父に対し、少々幻滅を覚える。
というか、ぶっちゃけ『キモイ』。
 なにしろ年頃なのだ。
性的なことに関して、潔癖なまでに神経質になってしまうのは容赦してもらいたい。

 ミミリが厳かに端を開いた。
「叔父様。これはお母様から聞いたことなのですが」
「うん?」
「『英雄色を好む』という言葉の意味をご存知でしょうか?」
 (おい。いきなり直球かよ…!)
見切れた視界の外で、ヒューケインの目がそう言っていた。
 「ああ、英傑というものは戦いを生業とする力強い男性が多い。
故に精力が強く、美しい女性を好むという。
いつ戦いで命を落とすとも限らないからね。
多くの女性とまぐわって一人でも多く、自分の子孫を残す確率を
上げておかなければと言う
男性の本能が、彼らをそうさせたのだろう。
そうした太古の戦士たちの生き様をなぞらえた故事だね」
 「それでは、英雄と言う括りで言うのならば、叔父様もその
定義に当てはまるのではないでしょうか。その身一つで宇宙最大の
重工企業群、アイテックス・グループの頂点にまで上り詰め、会長職と
取締役代表の座に着いた手腕。今では産業シェアの4割を寡占するにまで至り、
先代が創り上げた組織と、GUC政府の兵器受注を一手に引き受けるまでの
コネクションを磐石な物とした実績。まさに現代の英雄と
呼ぶに相応しいと思います」
 長々と長舌を振るうミミリ。空気の読めない天然の鈍感と
周囲に思われがちだが、実は雑学を始め、ビジネスやら
経済といった事情には詳しいのだ。
 (確かになぁ。…しかし、すごいな嬢ちゃん。たいした弁舌っぷりだぜ)
(ほほう、見直した。どうして、なかなか博識だ。聡明な子じゃないか)
ミミリの以外な面を垣間見た凛とヒューケインは、素直に感嘆を漏らした。

 「なら叔父様も、英雄の定義に則り。多くの女性をそばに侍らし、
この手に抱きたいと言う願望がおありなのでしょうか?」
 「え?うーん…」
『もちろん自分も男性の端くれ。そうした願望があると言えばある』と、
頭によぎったが、
ユリウスは、それを言わなくて本気で良かったと思った。
 「だとしたら、私はそうした殿方を軽蔑します。嫌悪します。
一緒にいたくもないです。
というか、人として最低です。口も聞きたくありません。
というか、キモイです」
 (ん、なっ…んだとっ!?)
 デデーン!
ユリウスは、雷が落ちたような衝撃を受け戦慄した。

――(潔癖な子だとは思ったがここまでとは。
あの兄夫婦の元で育ってきただけはある。
よくぞここまで立派に、高尚な心を持つ子に育ってくれたものだ。
だが、しかしだ。
もしも私が、
『プールサイドを水着美女一杯にしたーい、酒池肉林だ。ヒャ☆ホーイ』
とか言う、密かなハーレム願望を抱いていると知ったら、
間違いなくあの子は私を軽蔑するだろう。
あの子は私を親のように慕っているし、なにより憧れの感情を抱いている。
その気持ちを裏切ることなど出来はしないッ。
優しい清廉潔癖な叔父を演じなくてはッ…!
さりげなく状況を利用して、栞や凛、ツツジ君、
あまつさえ寝ているミミリにこの手で水着を着させて、
上手いことプールサイドに招くことが出来たというのに…。
今、その意図を見抜かれるワケには行かない。
そうなったら、私は破滅だッ!
社会的にも、プライベート的にも。
一生、ミミリに口を利いてはもらえないだろう。
なにより、『キモイ叔父さん』のレッテルを貼られてしまうッ!
むしろ、そちらのほうが恐ろしい。
…なんとしてでも、事実を隠し通さなければ…!)――
 
 「は…ははは。まぁ、せっかくのプールだしねぇ、
皆に遊んでもらおうと思って。
プールサイドに普段着なんて、どう考えても粋じゃない。
それで皆には
水着を着た上で、ここに集まってもらったんだ」
平然を装って言うユリウスだったが、その額には冷や汗が伝っていた。
 「叔父様は、あれ?スーツ…です…よね?」
「あ…あはは。まぁ、仕事の合間に寄っただけだからね」
「そうですか。じゃぁ、特別な他意はないと言うことですね」
 ニッコリとして言うミミリだったが、その目からは光沢が消え失せていた。
どこか得体のしれず、底の見えない恐ろしさがあった。
その目を見て、ユリウスは顔を青ざめさせた。
 「他意?ど…どういうことなんだい、ミミリ」
「あ…いえ、私の思い違いでした。ああ、よかったぁ。私はてっきり
『プールサイドに沢山の水着美女を招いて、酒池肉林だ。ヒャッ☆ホーイ』
なんていう趣味が叔父様にあるものかと思っていました」
 ドキーン!
ユリウスは心臓に杭を打ち込まれたような衝撃を受けた。
 「ははは。何を言っているんだい、ミミリ。そんなわけ無い
じゃないか。あ…アハハ」
そういうユリウスの顔からは、完全に血の気が失せていた。

 ――ユリウスは思った。
(狙ってやっているのかどうか分からないが、鋭いなこの子は。
私の趣味と願望を知っているというのか。