マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで)
13.
幕間劇3
〜intermedio〜
叔父様は素敵な人なんですよ(棒)
「というわけで、ミミリ君からも学園長に
なんとか言ってくれないか」
「分かりました」
凛の話を聞くに、叔父ユリウスはここ最近、仕事に引っ切り無しでろくに
休暇を取っていないと言うことだった。
凛を含む他の秘書官が、休養を進めても曖昧にごまかして、
聞き入れようともしないらしい。
それほど仕事の虫になっているという話だった。
「ワーカーホリックだよなぁ、完全に。なにを思いつめているか
分からないが、深刻だぜ、あれは。可愛い姪の嬢ちゃんが言って、
少しは考えを改めてくれれば
いいんだがよ」
「凛さん、ヒューケインさん、ありがとうございます。
叔父様のこと心配してくれているんですね」
ミミリは頭を下げ、二人にふかぶかとお辞儀した
「ふっ、よしてくれ。私は秘書官としての務めを果たしているだけさ」
「そうだぜ。よせやい。俺も凛もそんな柄じゃねぇよ。顔をあげなって」
つっけんどんだが、照れくさそうに言う、デジタルアナログ姉弟。
やっぱり素直じゃない二人だった。
三人で雑談を交わしていた所に、邸宅の方から足音が聞こえた。
「おお、目を覚ましたようだね。ミミリ」
邸宅のテラス窓から出てきた、白いスーツに身を包んだ長身の紳士。
猛禽類のように力強く立派で形の整った太い眉、艶のあるアッシュ
ブロンドの髪をオールバックにして纏めている。顔の彫りは深く、
匠な彫刻家によって造られた彫像のような美しさと趣がある。
悠然と歩くその姿には、市井の俗人にはない高貴さと威厳があった。
再び帰る場所と居場所を与えてくれたユリウスは、
ミミリにとって恩人であり、救世主であり、憧れのプリンスであった。
一大財閥の嫡男であり、プランタリアの学園長という
政府の重役を任されたセレブリティ。貴族主義が現代まで
残っていたのならば、彼は間違いなく領地を統括する
公爵の位を戴くに相応しい人物と言える。
「ユリウス叔父様」
ミミリは、叔父ユリウスの姿を見て、思わず駆け寄った。
そのユリウスの背後に続いてやってきたのは、
水色のパレオつきビキニを身につけ、
髪をポニーテールに結ったツツジ。
と、
白いレオタード水着姿の、初めて見る若菜色の長い髪を持つ女性だった。
――いや、一度入学式の折りに見たことがある。
プランタリアの生徒会長、金雀枝栞(エニシダ シオリ)。
人類発祥の地である地球の民族文化と様式が、
貴重な文化遺産と化したこの時代に、
日本的な大和撫子然とした、貞淑な佇まいを旨とする礼儀作法を
知る女性がまだいたのかと、ひどく感銘を受けたのを覚えている。
幼い時より、日系人ハーフである養母フィオネリアに
日本の話しを聞かされて以来、
日本文化に淡い憧憬を思い描いていたミミリにとって、
それを体現する金雀枝栞の存在は憧れであった。
それよりも、まずはだ。
ミミリには、叔父ユリウスに謝るべきこと、
話したいことが沢山あった。
「本当に、ごめんなさい。一年間も行方知らずで、
ご心配をおかけしました」
「無事でよかったよミミリ。君に何かあっては、ジュリアス兄さんや
フィオネリア義姉さんに
申し訳が立たない。本当に無事でよかった。
宇宙を漂流して生還するなんて、ミミリはサバイバルの達人だね」
「えへへ」
ミミリは、叔父ユリウスが優しく、寛大な人であることを知っている。
公では厳しい人物で知られる彼だが、プライベートでは、
特に親族やその血縁にある人間には仏のごとく優しい。
そんな叔父の優しさにずっと甘えっぱなしと言うわけにもいかない。
なにか自分に出来る恩返しはないものか。
それが、ミミリの悩みの一つでもあった。
「しかし、見つけるのに本当手を焼いた。
ツツジのレゾンリンク感知圏内にまで来てくれて本当に良かったよ。
君と来たら、我々が場所を特定して迎えに行くたびに、
絶妙なタイミングでそこから居なくなってしまうんだから」
その事実に、ミミリは青ざめた。
心の中が羞恥と申し訳なさで一杯になったからだ。
今思えば、行く先々のコロニーで自分に話しかけてきた黒服の人たちは
叔父の使いの者だったのかもしれない。
それを人さらいと勘違いしてしまうなんて。
「えっ!?そうだったんですか。
あ…あの、そうとは知らず、すいません。
アチコチ飛び回ってしまって…」
「いや、いいんだ。でも、よく自力でプランタリアの近くまでこれたね」
「はい。連絡のとりようがないから、自力で帰ろうと思ったんです。
端末もとある事件の折に無くしてしまいまして。
それで、シャトルの運賃を稼ぐためにバイトもしたりして」
「へぇ、凄いじゃあないか。逞しいなぁミミリは。
ほんと、感心するよ。大変だったろう」
「いえ、そんな。もらったお給料も殆んど交通費や食費に割いてしまって、
連絡を取るため携帯端末を買おうにも、それほど余裕がなくって…」
そこを遮り、訝しげな表情を浮かべたツツジが話に割って入ってきた。
「…所で、あんたさぁ。ネットや他の通信導入施設で
プランタリアにコンタクト取ろうとか考えなかったわけ?」
「え?」
「ネカフェとかでさ、パソコン使えるじゃん。
それでプランタリアのメールフォームから
連絡つければ、一件落着だったんじゃないの?」
それを聞いて、ミミリは無垢な表情で小首を傾げた。
「ネカフェ??なんですか、それ?」
「「「「は?」」」」
『なにを言ってるんだお前は?』と言った風に、一同は目を丸く点にした。
ただひとり、微笑を浮かべている金雀枝栞を除いて。
「って、あのねぇ。ネットカフェのことよ。ネットと
パソコンを使える個室を時間制限付きで貸してくれる店。
短時間なら、端末買うよりもずっと安上がりで
ネット出来るわよ、そっちの方が」
「ええっ!?初めて知りました。あぅあ、
世の中はそんなにも便利になっていたんですね…!
恐るべし、人類の知恵と文明ッ…」
「アンタは、IT革命黎明期の旧世紀人か。
はぁ…アンタって、ホント箱入り娘なのね」
「え、えへへ…働くのに夢中で、周囲の娯楽施設とか
ノーチェックでした。仕事が終わったあとは、
疲れてご飯食べたらすぐに寝てましたから。
あ、あははは…」く(^0^;)
「あ、そう。一つ勉強になってよかったわね」と、
じっとりした眼つきで呆れるツツジだった。
「ははは…。所でミミリ。そこの二人とはもう挨拶は済ませたのかな?」
気を取り直したユリウスは朗らかな調子でミミリに尋ねた。
「あ、はい。先ほどまで色々とお話しもしてました。
お二人とも、とてもいい方達で」
「そうか。どうもありがとう、二人とも」
ユリウスは、感謝の意を表して、凛とヒューケインに軽く頭を下げた。
それに対し、凛は敬々しく会釈を返し、
ヒューケインは『どうぞ、お気にせず』と、手をヒラヒラさせて返した。
「では、こちらの彼女とはまだ直接面識がないようだから紹介しておこう。
プランタリア生徒会長を務める金雀枝栞(エニシダ シオリ)君だ」
ユリウスの後ろに控えていた金雀枝栞と呼ばれた少女が、
軽く頭を下げて前に出てきた。
作品名:マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで) 作家名:ミムロ コトナリ