マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで)
今頃、会議室で理事会の面々と小難しい議論を交わしているのだろう。
その後、自身に降り掛かる災難など、知る由もなく。
「むぅぅ、あやつめ。…説教どころではすまさん。
打擲の罰を加えた上で、<地獄のお遍路・インザ・フロム・セルシウス
銀河三大恒星三つ巡り>に出仕させてくれるわぁー!」
カエサルの目には怒りの炎が煌々と宿っていた。間違いなく、
本気でやるという目だった。
地獄のお遍路(以下略)が、どれほど恐ろしいモノかは知らないが、
文字通り地獄のような苦行を強いられるのだろう。
怒り心頭してドカドカと大股歩きでプールサイドを後にしたカエサルを、
一同は引きつった苦笑いで見送った。
「つ…疲れた。なんでカエサル翁まで来んのよ」
ツツジが疲労困ぱいめいっぱいに項垂れた。
常識人である彼女は、お偉方の前では偉く緊張してしまうのだ。
その横で、ミミリは隣にいたヒューケインにコソッと耳打ちした。
(凛さんって…おもったんですけど。結構、意地悪ですよね)
(いや、意地悪なのは俺限定だ。アイツはデジタルなまでに
公明正大すぎるのさ。
融通が利かないとも言うけどな)
(あと、遠まわしにワーカーホリック気味の学園長を気遣っているんですよ)
二人のヒソヒソ話に、栞も混じって入ってきた。
(ここ最近、ミミリさんの捜索に、会議に、公務と、
激務が続いていましたから。
かなりお疲れのはずなのに秘書官である私や凛がお休みを進めても、
笑って曖昧に返すだけなんですもの。それでも、休暇を取らない学園長を
見兼ねたのですね凛は。
ああ言う事を言っておけば、ご隠居にお灸を据えられて、
少しはこりて体を労ると踏んだのでしょう。お遍路巡りも、
ちょっとした旅ついでの休暇になるはずです。
まぁ、多少”厳しい休暇”になるとは思いますが。ふふふ)
柔和に微笑む栞だったが、冗談じみた言い回しには
多少の”黒さ”が含まれていた。
(ははは…)
「聞こえているぞ、お前ら」
「「「わぁっ!」」」
先程の会話は、どうも凛の耳に筒抜けだったようだ。
バレてしまっては誤魔化す必要もない。
ミミリは感じたことを言った。
「えへへ、凛さんってやっぱり優しいですよね」
「ふっ、何のことだ?さっぱり判らないな。私はありのままを伝えただけさ。
まぁ、”多少の誇張”はあったがな」
素知らぬ振りで言う凛だったが、顔にはほのかな笑みが浮かんでいた。
作品名:マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで) 作家名:ミムロ コトナリ