小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで)

INDEX|11ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

 それを聞いて、ユリウスの顔がさらにサァーと、青白くなった。
と、同時に『はぁぁー…』と安堵の溜息が聞こえたような気がした。
 「アアッ!モウソンナ時間ダッタカ―。アリガトウ、栞(棒)」
片言の棒読みで栞に礼を言うユリウスだった。
 (助かったな)
(ああ、助かったな。社会的な意味で)
(なにこの空気…。訳分かんないんだけど)
やっぱりツツジはわかっていなかった。
 「恐れ入ります。あら、噂をすれば…」
屋敷のテラス窓の向こうから、こちらへと向かってくる黒い
外套をまとった老人の姿が見え隠れした。
 「まずい…ほんとに来た!じゃぁね、ミミリ。
今晩、食事の時にでも、ゆっくり話をしよう」
バイバイと手を振って、ユリウスは一目散に走りだした。
「はい、いってらっしゃいませ。叔父様」
ミミリは、泡を食った様子で屋敷の庭園へと駆けて行った
叔父の後ろ姿を見送った。
 あのユリウスを、こんなにも取り乱させるほどの<ご隠居>
とはいったいどれ程の怪人物なのであろうか。
 「おや、ユリウス坊の声がしたと思ったのだが。気のせいだったか?
君たち、なにか知らないかね?」
 ユリウスが姿を消したのとちょうど入れ替わりで、
先程の外套の老人――
アイテックス・グループ前会長、カエサル・ダンデライオンが
プールサイドに顔を出した。
彼が全身から放つ空気は、覇気そのもので、年老いた壮年の男性とは思えないほど
力強い豪胆さを醸し出している。
 一同は、そうしたカエサルの存在感に圧倒され、
ひれ伏すように萎縮してしまった。
『無礼を働けば首を跳ね飛ばされる』――
そうした畏怖を感じたからだ。
 訝しむ様子のカエサルを前に、一同は苦笑いを返すしかなかった。
そこに、凛が沈黙を破るように、背筋をピンと
伸ばして堂々と前に出てきて言った。
名前のとおり”凛”とした張りのある声で。

 「いいえ、カエサル翁。学園長は、先ほどまでここで塩を売っていましたが、
先ほど慌てて理事会会議に向かわれました」
「なん…じゃと?」
老人の眼光が鋭く鈍く光った。
 (あわわ…)
(ちょっと、何言っちゃってんのーー。お姉ちゃん!)
(凛様、マジで!空気読んでくださいよ)
(あらまぁ、たいへん)
凛の発言に、一同は思い思いに、驚きを顕にしたが(栞を除いて)
すぐに真顔を被った。
 「坊め、余暇のない程スケジュールを詰め込んで、
それを曲げて時間を作るくらいなら、プランをするなと
言っているのに。
まだ、社長時代の悪い癖が抜けきっていないようだな。
あとで再教育してくれる。
栞、凛。すまんが坊にそう事伝えてもらえるかのう」
 「はい。カエサル様」
「はっ、畏まりました。それとカエサル翁、最近のユリウス様には
少々問題が見受けられます」
「ほう。なんじゃ、言ってみなさい」
 カエサルの発する気が更に威圧感を増した。
重厚なテナーの声がその威圧感をさらに増大させている。
さすがの凛も、少々たじろぐ様子を見せた。
 「はい。あのう…その…」
「どうしたのだ凛。申してみなさい」
 カエサルに催促され、凛はなにやら言いにくそうにもじもじと、
前に組んだ手をくしゃくしゃさせる仕草を見せた。
もごもごと、少々躊躇うように口を開き、
 「いえ、その少々…はばかられることで…失礼になるのではと…」
顔を紅潮させる凛。厳格な性格の彼女がああなるとは、
よほど言いづらいことなのだろうか。
 「構わんよ。生徒からの意見は貴重な改善の提案だ。
いつまでも現状が続くことなどあり得ない。時代に合わせて我々は変化して
行かなければならない。君たちの意見は、
プランタリアと、その運営を任されたユリウスのためにもなる」
ミミリとヒューケインはそれを聞いて、全くその通りだと頷いた。

 「わかりました」
凛は決心をつけたようで、顔を赤らめ直立不動の姿勢で、声を張り上げた。
 「では申し上げます」
声が裏返っていた。
「女子生徒に水着を着せてハーレムのように側に侍らすのは
いかがなものでしょうか!」
「なにぃぃっ!?」
「「「「ブフゥーーー!」」」」
 凛の、あまりにもぶちゃっけた発言に、一同は思い切り吹き出した。
(やはり、栞を除いて)
「り…凛よ。それは…ほ…本当なのか…」
カエサルは、その場にくずおれプルプルと声を震わせて言った。
 「はい、残念ながら。学園長にはそう言った『アレ』な趣味があるようで」
間違ったことは言っていない。”概ね事実だ”。
 「ア…『アレ』とは、一体なんなのかな…?」
腰砕けになって、尋ねるカエサル。声には多少の動揺が見られた。
 「英雄色を好むとは良く言ったものです。
一見人畜無害そうに見える学園長ですが、
その裏では相当”せいを出して、励んでいる”に違いありません」
 後を続ける凛は、自身の体を両手で抱きよせて、ガクガクと打ち震え、
何かに怯えている様子を見せた。
 「特に、私と金雀枝を見る目は、明らかに性的興味を抱く
”男の目”をしていました。
特に私の肢体を舐め回すように見る目などは…
ああ、思い出すのも恐ろしい」
 (おいおい、自意識過剰すぎるでしょう…)
ヒューケインは目でそうツッコんだ。
 「あれは間違いなく、女性を手篭めにせんとする狼の目。
いつ溜まりに溜まったリビドーを純真な女子生徒に向けるやもしれません。
なんと、不潔で破廉恥なことでしょう。
それに、『眠っている十四歳の少女を水着に着せ替えることに異様な
性的興奮を覚える特殊で変態的な性癖』を持ち合わせているという
噂が立っていると聞きます。
ううっ、想像しただけでも、なんと恐ろしいッ」
 手元を口で押え、涙声で嗚咽を漏らす凛。もちろん、演技である。
というか、さらりととんでもないことをバラしていた。
 数時間後には、ウィキペディアのユリウス・ダンデライオンの
人物評に、『プライベートでは優しく柔和な人物ではあるが、
眠っている十四歳の少女を水着に着せ替えることに(以下略)
という特殊で変態的な性癖の持ち主でもある』というコメントと
注釈が追加されていることだろう。
 「あ…あ…」
ガラガラと、カエサルの中で何かが崩れ落ちているのが見て取れた。
 それでも凛は、熱に取り憑かれた様子で一気に最後までまくし立てた。
「おまけに、プールサイドに水着美女を集めてパーティー開いて
酒池肉林だヒャ☆ホーイと妄想じみた願望を生徒や私たち秘書官の
前でも憚らずおっしゃる始末ッ!
明らかなパワハラを兼ねたセクハラです。職権乱用です!!
清廉潔癖であるべきプランタリア学園長の役職にあるまじきモラルの欠如。
いかがしましょうかッ、カエサル翁ッ!?」
 凛のあまりにも大仰で誇大妄想が多分に含まれたトンデモ報告の内容に
一同は唖然として口をパクパクさせていた。
 カエサルはショックからようやく立ち直ると、全身を怒りにわななかせた。
「あの坊に、そんな裏の面があったとは…。それを見抜けぬとは、この
カエサル・ダンデライオン。く…く…一生の不覚…ッ!」
 (…叔父様。貴方のいない所でお祖父様の叔父様に対する株価が大暴落してますよ…)
 ミミリが思う通り、本人はそんなことなど露知らず。