マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)
中には、衝撃波で吹き飛ばされた折り、
地面や木、構造物に叩きつけられ、絶命した人もいた。
「…っ!」
視界の中に、赤黒いものが映った。
もともとがなんだったのか判らない、赤黒い肉片のような物が
あちこちに飛び散らかっていた。
それを見て、ミミリは吐き気を催しそうになったが、強い意志でぐっとこらえた。
はっとなった。
「ツツジ…!」
ミミリは、辺りにツツジがいないことに気が付いた。
痛みを堪えて立ち上がり、傷だらけの体を引きずって彼女を探し回った。
――不安が心のなかで膨れ上がっていくのが分かった。
失うのが嫌だった。
大事なオモチャを壊した時、せっかく描き上げた絵が汚れた時、
決まって黒い虚無が心を塗りつぶした。
それはたまらない喪失感を心にもたらし、実に大きい
ストレス(過負荷)となってのしかかった。
だから、自分は物を大切に扱い、大事にすることを心がけた。
あんな”痛くて重い”のは嫌だ。
それこそ、姉妹同然の自身の片割れでもある彼女――
ツツジを失えばどれだけの虚無が心を押し潰すのだろうか。
想像するのも嫌だった。
「ツツジ!」
いた。いてくれた。生きている。
公園の中央。水飲み場の側でツツジは気を失っていた。
多少の外傷は見られるものの、鼻孔から聞こえる呼吸のリズムからして
重大な怪我は負っていないように見えた。
「あ…つつ。ミミリ…」
「大丈夫、ツツジ。痛いところ無い」
「…ったく、あったりまえよ。そういう、アンタは…大丈夫?
…こらぁ、血出てるじゃない」
弱々しい声だったが、いつものツツジだ。
その声を聞いて、思わず涙腺が緩んだ。
「うん、大丈夫だよ。私の心配なんていいよぉー…えぐっ、ひぐっ。
…無事で、無事で良かった、良かったよぉーぅ…」
「泣くんじゃないわよー。泣き虫ミミリ」
「うわぁぁぁん」
ツツジに手伝ってもらい、額から流れていた血を止血し、
軽く応急処置を済ませた。 その後、二人は両親の安否を
確かめるため携帯端末で連絡を試みたが、徒労におわった。
「だめね、連絡つかない。携帯繋がらないわ」
「私もです。ネットもメールもダメ。サーバーがダウンしてるみたいで」
先程のメテオインパクトが起こした衝撃と電磁波の乱流で、
通信インフラがダウンしてしまい、あらゆる通信手段が使用不可能になっていた。
交通機関やライフラインも言わずがな。断絶状態だった。
街の他の場所も、公園付近と似たような有り様になっていた。
ただし、街の中心部以遠はグラウンドゼロからは遠く離れており、
火災による煙や火の手、車両事故の発生はいくらか見られるものの、
その被害はまだ軽微な方だった。
「しょうがない。ここで別れましょう。気をつけてね、ミミリ」
「うん、ツツジも。じゃあね」
バーベナの市街地は、レンガが敷き詰められており、
かつて地球にあった欧州を想起させる街並みとなっている。
路上列車の路線が街の四方八方に張り巡らされ、
路面と同じようなレンガ造りの建造物もあれば、木造の建築物もある。
バーベナは地球の文化を、形状遺産として語り継いでいる街だった。
そのクラシックな情景を、警察車両や消防車両がけたたましくサイレンを
鳴り響かせて行き交う喧騒の中に、ツツジは消えていった。
作品名:マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで) 作家名:ミムロ コトナリ