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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)

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4.



 「天にまします、我らが偉大なる先達たちよ。
今、貴方(隣人)、貴君(君子)がたの御元に我らの友人が、
そのお側に参ります――」
 非道いくらいにまで底抜けに明るい快晴の青空の下。
街を望む丘の高台で、牧師が弔文を読み上げていた。
 ミミリは、”ただ一人”――”両親の遺影”を小さな身で抱え持っていた。
牧師の弔文と葬儀の参列者達がすすり泣く声を聞き、
”両親の墓標”の前で粛然と立ち尽くしていた。
 ミミリは泣いていなかった。もう涙は枯れ尽くしていた。
 あれから一週間が経っていた。

 先日のメテオインパクトは、この星――
エイス・イルシャロームの衛星軌道ラグランジュ点
以遠のアステロイドベルト帯で行われた『汚染災害処理』。
つまりは、対A(アクトゥスゥ)作戦課<M.S.T.L.TIN>(ミストルティン)
に所属する軍のマジェスター部隊と、五千を越す
アクトゥスゥ変異体の群れとの戦いが
切っ掛けで引き起こされたものだった。
 作戦の最中、全長千三百メートルのインビンシブル級駆逐艦八隻が、
アクトゥスゥに汚染され変異体と化した。
乗っ取られた艦達は、こともあろうに真っ直ぐにエイス・イルシャロームへと
その進路をむけたのだ。
 六隻は撃沈・撃滅。ニ隻は、エンジン中枢部に取り憑いたコア化した
アクトゥスゥを撃滅したものの、その内の一隻が
エイス・イルシャロームの重力に囚われ、阻止限界点を突破。
地上への落着コースに乗った。
 それを大気圏内で破壊しようと、部隊のマジェスター達が奮闘したが、
完全に破壊するには至らなかった。船体は、ミミリが暮らすバーベナの街から
40km離れた海上に落着した。
 メテオインパクトの被害を最も被ったのは、
落着点に最も近いバーベナの北西部だった。
連邦上院議員であるジュリアスは、妻フィオネリアを連れ立ってその区域で、
遊説を兼ねた講演会を催していた。
 講演会場である市営ホールには地下シェルターも備えてあったのだが、
大質量の落着物が生み出した衝撃波と地震の破壊力は、
遥かに想像を超えたものだった。
 シェルターは、かろうじてそれに耐えた。
 世界の物理法則がもたらす災厄は、それでは終わらない。
 衝撃波と地震の次にやってきたのは巨大な津波だった。
落下した巨大な船体が海を叩いたことで引き起こされた海面の隆起現象。
 バーベナ北西部は津波の激流に飲み込まれた。
地震によって道路の路面構造物は尽くヒビ割れ亀裂が走り、断層が出来ていた。
 軒を連ねる建築物やビル郡も地震と衝撃波で屋台骨が崩れ落ちていた。
剛性を失った建造物や構造物は津波に押し流され、
激流は進路上にあるものを分け隔て無く押し潰し、飲み込み、
戻る引き潮で一切合切の殆どが海に引きずりこまれてその姿を消した。
 後に残ったのは、丸裸になった荒地に散らかる瓦礫の山。
それが、バーベナ北西部の惨状だった。

 ――捜索も虚しく、二人の遺体は見つからなかった。
跡形もなく吹き飛んでしまったのだろうか。死んだことさえ
気づかず、形さえ残さず。
それとも、津波にさらわれ海の藻屑と化してしまったのだろうか。
 ここにある墓には、二人の遺骨は入っていない。
ただ、死んだという事実だけを伝える文字通りの墓標があるだけだった。
 この事件の責任をとって、当時の安全保障省長官は辞任した。
軍の幕僚やその関係各所機関の様々な幹部たちの首もすげかわった。
 そんなことは、ミミリの今後の人生には全く関係がなかった。
彼らがどうなろうが、自分を愛し、自分が愛した両親は二度と
帰ってくることはないのだ。

 葬儀が終わった後、ミミリは一人ぽつねんと両親の墓の前で佇んでいた。
 目頭がじわりと滲んだ。
出尽くしたと思っていた涙が、ミミリの頬を伝った。
 「うぇ…。うえぇぇ…ん。うわぁぁぁん」
 今までの両親との思い出が脳裏を巡り、それが渦となって押し寄せてきた。
一挙に堰を切ったように涙が溢れ出した。
 そんなミミリの側に一人の紳士が寄り添うようにやってきた。
紳士は、ミミリの目線の高さまで腰を落とすと優しく声をかけた。
 「ミミリ・N・フリージアさん…だね?」
「うぐっ…。ひぐっ…。あい、そうです…」
「はじめまして。私は、ユリウス・ダンデライオン。君の父ジュリアスの弟だ。
親戚の子供たちからは『タンポポおじさん』と言わている。そのまんまだけどね。
まぁ、それどころでは無いと思うけど。どうぞ、よろしくミミリ」
 丁寧に挨拶と自己紹介をしたユリウスに、ミミリは礼儀よく接しなければと思い、
泣くのをやめた。
 「あ…はい。すいません、お見苦しい所を見せてしまいまして。
はじめまして、ユリウス叔父様。ミミリ・N・フリージアです」
「強い子だね、ミミリは。本当は、まだ流したいほど涙と
悲しみを溜め込んでいる筈なのに。
もう、ぴったりと泣き止んでしまった。兄夫婦は君に
良い教育をしてくれたんだね。
その教えを理解して実践できる君は強い上に、本当に賢い子だ」
 ミミリは両手でぐしぐしと涙を拭った。
「いえ、そんな…。でも、ありがとうございます。
そう言ってもらえれば、亡くなった父と母も浮かばれるはずです」
 ユリウスはそれを聞いてニッコリと微笑んだ。
ミミリは、その顔からとても温かい優しさを感じた。
ユリウスは顔から微笑みを消して、真剣で真摯な眼差しを
ミミリに向け、告げた。
 「これから君は、政府のマジェスター教育施設に預けられることになる。
そこで、今の君と同じような境遇の子達と一緒に暮らすことになる。
そこには様々な人間がいる。君の友になる子もいるだろう。
しかし、君の平穏を脅かす子もいるだろう。そこにいる教員や大人達も同じくだ。
彼らは、君にとても抗いがたい理不尽を強いてくるかもしれない。
それほど、死んだ方がましに思えるくらいの」
 「はい」
ミミリは力強く頷いた。
 「それでも強く生きて欲しい。君が十三歳になる年のはじめに
私が必ず迎えに行く。必ずだ。そうしたら私が君の居場所になろう。
居場所を与えてあげよう。
幸せな日常を再びその手に取り戻す手伝いを私がしよう。
もし君が許すと言うのなら、私が親の代わりを務めたいと
考えている。いいかな?」
 「はい、ありがとうございます叔父様。申し出は本当に、
とても嬉しいです。今はまだ答えをだせませんが、いつかお返事を
させてもらってもよろしいでしょうか?」
 ユリウスは、一瞬目を閉じ儚げな微笑を浮かべた。
「ただ甘えるのは良しとしないか。立派だね。もちろん構わないよ。
一月に一度は、手紙を出すよ。近況を聞かせてくれると嬉しい。
では、それまでは暫くのお別れだ。四年後にまた逢おう」
「はい、ユリウス叔父様。必ず手紙のお返事、書きます。では、また四年後に」
 そう言ってお互いに抱きしめあい、二人は四年後の再会を誓って別れた。
これが、ミミリの叔父ユリウスとの初めての出会いであり、暫しの別れだった。