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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)

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1.



 宇宙に瞬く流星。
一つ、二つ、三つ…十…総計十二。
厳密には、それは流星ではなく人だった。

 彼らには、生まれながらに使命があった。
人の叡智と科学によって造られた、花の名を戴き冠する
彼・彼女達の使命。

 それは、宇宙の深淵から這い出てきた”異物”
Acts-Uw<アクトゥスゥ>を撃滅し、
人類を初めとする生命の生態系を守り、保全すること。

 その用途のためだけに造られた存在。
<マジェスター>。

 自由を限定された短い生涯を、使命の為に捧げ燃やし尽くす。
自らを犠牲にし人類を守る人造の超人<英雄>。
まさに彼らは偉大なる高貴な者<マジェスター>と呼ばれるに相応しかった。

――GUC(銀河団星間連邦歴)1055年。
神の世紀(西暦時代)が、遙か太古の古典と化した現代。
その時代の詳細は、ネットのデータベースと、
教科書のわずかな数ページ、
それに歴史の専門書を通してしか窺い知ることは出来ない。
 今や人類の科学力は、それこそ物理の限界を突破すること
意外なら尽くを可能にし、世界の理と概念を全て解明せんと
する一歩手前の領域にまで踏み込んでいた。

 対アクトゥスゥ撃滅攻撃用バトルスーツ<AQUA-ARIU−S>(アクエリアス)
に身を包んだマジェスター達の一団。
その一団から先だって進む、二人の少女が宇宙空間を舞う姿があった。
 <アクエリアス>の装甲表面を走査する翠色の蛍光線が明滅を繰り返し、
それが残滓となって黒い宇宙に碧の軌跡を描いた。
 
 『S(シード)101より、S601、602へ。
先行してスカウトにあたれ。
ガーベラ8(エイト)は発見しだい撃滅<バニッシュ>せよ。
ただし、近接戦闘は禁じる。
それ以外の手段を用いて撃滅せよ。カバー』
 「601任務(オーダー)了解」
「602任務了解」
 『枯れるなよ、プランタリア<人工の庭園>で芽吹いた
ばかりの種子<ベビー>たち。
まだまだ折り返し地点なんだからな。先は長いぞ。
では、健闘を祈る。交信終了<コンタクトオーバー>』
中隊長からの通信が終わるやいなや、コールサイン
S601――頭の左右に結い上げた二本の細長い三つ編みを、
ごてごてとリボンのついた髪留めで飾った藤色髪の少女。
エリカ・シュンシエンが不満げにぼやいた。
 「全く、私たちを稚花<ベビー>扱いだなんて。失礼しますわね」
「不敬ですよ、エリカ。<プランタリア>では精鋭の私たちも
軍(ここ)では新兵同然。実働部隊である彼らのほうが経験も
技量も、私たちよりもずっと上なのですから」
エリカをたしなめるように、S602――水色髪の
ボブショートヘアの少女が言った。
 「っ…それはそのとおりですけどね。…チルドで湿っぽい
反応ですこと。舘葵『深冬』ねぇ…名前は体を表すとはよく
言ったものですわ」
エリカは、ふんと鼻を鳴らした。

――ついぞ五百年前まで人類は、超銀河団どうしを隔てる
グレートウォールの入り口まで到達したというのに、
三百年前『彼ら』の現出を皮切りに、
そこから引き返さざるを得なくなった。
 人類は、『彼ら』から逃げるようにして、広がる宇宙を進み、
その行く先々で星々を開拓しながら営みを続けていた。
 
 <アクエリアス>からスラスターの光を撒き散らし、
小惑星に着床した二人は、太陽光の
当たらない陰から身を匍わせて、遥か遠方の宇宙空間を伺った。
 ――無駄が無いとはこういうことを言うのだろう。
彼女たちが身に纏う<アクエリアス>は、ごてごてとした余計な物が一切無く、
円と鋭角な線の混成で構成されている。
アクトゥスゥ撃滅という一つの事に特化したマジェスターに相応しく、
実にシンプルでインダストリアルなデザインだった。
 <アクエリアス>は、GUC連邦軍に広く配備されている
十二メートル大の統合汎用機動兵器<UG-MAS>の性能を
人間サイズにまで凝縮、再現している。
 身体能力の乗算強化、自律飛行、パワーブーストなどの
基幹性能に加え、スーツ自体が周囲の粒子を取り込み、
駆動エネルギーを生産するジェネレーターの役目も果たす。
加えて、その構造内には、物質を汚染し支配・侵食する特性を
持つアクトゥスゥを跳ね除ける抗体を、築一生産する機能も
備えられている。
 アクエリアス装甲表面を走査するエネルギーとアクトゥスゥ抗体溶液が
発する翠の光。
さながら彼女たちは、光の鎧を纏う戦女神(ヴァルキュリア)と言えた。

 エリカが瞬きすると、目元に片眼鏡型の望遠視ツールがすぅと、
音も立てず、元からそこにあったかのように現出した。
ただし、彼女は目に頼らず、”肌”で敵を”感じた”。
 「深冬さん。正面、十三時方向に標的八。
距離125000(ワンツーファイブオースリー)。ガーベラ8編隊は
密集隊形をとりつつ巡航中。狙いどきですわね」
 エリカは”肌で感じた”情報と、望遠視ツールのグラス上に
表示された標的の位置情報を、バディである
舘葵深冬(タチアオイ ミフユ)に伝えた。
 確認した敵性体は歩哨に過ぎず、少数でこちらの窮状を探りに
きたのだと思われる。向こうはこちらの存在を知覚していない様子。
わざわざこれ以上接近して、こちらの存在を明かす必要はない。
遠方からスナイプし、一撃のもと葬ってやればいい。
それで”めでたし”だ。
 エリカは、細く漏れ出す深冬の息遣いを聞いた。
正確には”感じ取った”だが。

 
 深冬は手にしたアサルトデバイスをぎゅっと握りしめた。
感覚と認識に優れ、観測と知覚に秀でた『能力』を持つ
水仙属であるエリカには、どうやら感づかれたようだ。
 マジェスターは草花の品種名を、属性識別コードとして
ファミリーネームに冠しており、品種ごとにそれぞれ先鋭的に
特化した能力が備わっている。
そこを行くと舘葵属の深冬は、液体を組成・分解・操作する力に
特化したマジェスターだった。
 「”震えてますの”。深冬さん」
「わかるんですか、エリカ。さすがに”敏感”ですね。ええ…そうね。
分かっていても…、やはりなれないものだわ」
 何を迷うことがあろう――躊躇せず、容赦なく、『撃滅』あるのみ。
無慈悲に、冷酷、冷徹に。
何を遠慮することがあるのか、相手はただの”モノ”なのだ。
 アクトゥスゥ素子に汚染され、異形へと変質した物質は、
この世為らざる『異質』へと変化する。
そうなれば、もはやそれはこの世のものではない。

 ただの”異物”・”異形”。

 ただの” モ ノ ” 。

 明確な意思を持って我々に襲いかかる敵だ。
この宇宙に生きる全ての生命に取り、排除すべき驚異と化す。
元となった物が、石くれであろうと、機械だろうと、動物であろうと。

 例え、それがかつて 

    -思考-
       
     5|/|2 1L`2 8|ν 3C¬4゛ 4[- #%8l××××××n

     -ノイズ-
不快・不愉快――思考中断。

…であったものだとしても――
一切の例外なく、撃滅の対象となる。

 彼女たちの目に映る標的。