マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)
プロローグ
床のタイルの継ぎ目が見えないほどの眩い白。
白の光に満たされた部屋の真ん中にぽつねんと置かれた、
これまた白い二つの椅子。
その椅子に座り、向かい合う二人の男女。
男は、白の中に打ち込まれた濁点のように黒い服装で。
女は、白の中に滲むような淡い躑躅色の髪をしていた。
『なぁ。もし。もしもだぜ。…いや、これは約束だ。
俺が間違いを犯したら、アンタが俺を止めてくれ』
『うん、約束する。アナタが間違いを犯したら、宇宙のどこに
いても必ず駆けつけて、私があなたを止めるわ。かわりに、
私も一つ約束、いい?』
『ああ、言ってくれ。アンタの頼みならなんでも聞こう』
『うん。お願いだからもう、
自分を犠牲にするような嘘はつかないで』
『おいおい、そいつは…』
『なんでもって言った』
『ちっ、わかったよ。やれやれちくしょうめ』
『ふふ。アナタ、演技上手な上に、嘘つきなんだもの。
あらゆる概念を理屈でねじ曲げ、精巧なレトリックで
人を操り、世界を動かす。
アナタに掛かれば、どんな嘘も本当になるし、
本当のことも嘘になる。
みんな上手く騙されてるけど。私はちゃんと解ってるんだよ。
だから、ね?』
『アンタには叶わないな。オーケー。
俺が嘘つきだって信じるアンタの信頼に誓って約束しよう。
だから、俺との約束絶対守ってくれよ。ギブアンドテイクだ』
『ふふ、なにそれ。まるで、自分は嘘つきじゃないって
言ってるみたい。
まぁ、いいや。うん、ギブアンドテイクだね。
約束、守ってね。宇宙一の嘘つきさん。絶対だよ』
『ああ、絶対だ。絶対守るよ』
それは宇宙一の嘘つきが、”偽りなく”
交わした”本当”の約束だった。
”嘘を捻じ曲げず、真実をすり替えず”。
言葉そのままに交わした約束であった。
作品名:マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで) 作家名:ミムロ コトナリ