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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)

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そして、分析・解析。『視る力』に特化したマジェスターだ。
 彼らはその能力を使い、この中庭で集配係のおじさんが
カバンを置いた隙を狙い、ミミリ宛の手紙をくすね盗っていたのだ。
悪意ある悪戯目的のためだけに。
 
 「おやめなさい」
 鈴の音のように響いて、それでいて静かな少女の声が聞こえた。
 三人の悶着に割って入ってきたのは、水色髪の
ボブショートヘアの少女だった。
 「関心しないわね。よってたかって、つまらない意地悪をして」
弱い者いじめの快楽に浸っていた双子の顔が、不愉快に歪んだ。
 「なんだよ、アンタ。関係ないだろ」
 「そうよ。なにかしら。私たちは遊んでいただけよ」
 水色髪の少女は、ミミリを一瞥した。
 「あの子の顔は、そうは言っていないようだけれど」
 「な…なんだよ。そんなのアンタの決めつけだろう」
 「…そう。じゃぁ、遊びだと言うのなら、その手紙。
返してあげても問題はないわよね」
淡々と言う少女だったが、その言葉には言い知れえぬ迫力があった。
 「ぐ…。ちっ、わかったよ。姉さん、返してあげてよ」
 「ふん…!ほら、受け取りなさい」
 吐き捨てるように言って、ジェニーはミミリにどんと
手紙を押し付けた。
 「あーあ、つまんないの。行こう、姉さん」
 微塵も悪びれた様子も見せず、双子は去っていった。
 「すいません。ありがとうございました。深冬『班長』」
ミミリは、少女に礼を述べた。
 「いいえ、気にしないで。同じルームメイトのよしみよ」
少女は、ミミリの部屋の班長を務める六期生、舘葵深冬だった。

* * *

 ガーデン808に来て、初めて迎える冬。
 その日、一日の教練が終わり、部屋に戻ってくると深冬が
トランクに衣類や私物を詰めている所に出くわした。
 「班長。どうしたんですか、その荷物」
 「ああ、お帰りなさい。貴方には言ってなかったわね。
私、今日でここを出るの」
 「卒業を待たずに…ですか」
 「ええ。後で言うつもりだったけど、<M研>の武器開発部門の
兵器開発に協力することになったの。テスターとしてね」
 「そうなんですか」
 ミミリは、寂しそうにしょぼくれた。
 「そう悲しそうにしないで。プランタリアに行けば、またどこかで
会える時もあるでしょう。それまで暫しのお別れよ」
 「ですよね。そう…ですよね。はい、向こうでまたお会いしましょう」

 その日の晩、ミミリの下のベッドにあるのは、丁寧に畳まれた
毛布とシーツだけだった。
 時たま部屋に忍び込んでいた男も、その日を堺にして
来ることはなくなっていた。 

     * * *
 
 ガーデン808に来て、二年が経った。
 ミミリは六期生になり、『独り』になった。
 陰ながら助けてくれたルームメイトの舘葵深冬もすでにいない。
 ナズナはここを卒業し、プランタリアへ行ってしまった。
その友人たちも同じく。
表立ってミミリを助けてくれる人間は、誰もいなくなってしまった。 
 陰湿な虐めは依然として続いていた。
 時たま、教科書が破り捨てられ、ゴミ箱に打ち捨てられていたり。
私物用ロッカーに、汚物やなにかのソースがぶちまけられていたり。
教練で使う野戦服を始め、衣服がロッカーから消えていたり。
 ロリコン趣味の一部の教官からは肉体的なセクハラやパワハラ
を恒常的に受ける毎日。
 正直、ミミリの心は折れかかっていた。
鏡に写る自分の目は、昏く泥のように濁り、死んだ魚の目をしている。
何もかもが嫌になっていた。
 自分が何をしたというのだ。自分が悪いというのか。
他人に悪意をぶつけて何が楽しい。あんな卑しい連中が、
自分と同じマジェスターの卵だって?…ふざけるな。
これ以上は冗談じゃない――
 明るく努めてきたが、もう耐え切れずツツジに一切合財をぶちまけた。
泥々しい内情を全て吐露した。
 『ミミリ…――てやりなさい』
ツツジが寄越した答えを聞いて踏ん切りがついた。
 (私は――もう)
ミミリは、この状況から逃げ出だす事よりも、戦うことを決意した。
 あいつらには思い知らせてやる必要がある。
人に対して悪意を向け、礼を失する行いが、どのような結果を生むか、
その体に教え込んでやる。
 ミミリは忍耐強く機会を窺い、強かにその時を待った。

 その日はやってきた。

 切っ掛けはなんだったかは忘れたが、つまらないことで
ジェニーとジェイミーが絡んできたのだ。
 「あらあら、ミミリさん。何を描いてらっしゃるのかしら?
んんー。ごめんなさい何が何だか分からないわね。
ジェイミー、あなた分かる?」
 「いいや、僕にも分からないよ姉さん。油の塗料を
でたらめに塗りたくった、ただの落書きにしか見えないなぁ」
 いや、思い出した。美術の時間、ミミリの描いた絵に、あの双子が
ちゃちゃを飛ばしてきたのだ。
 「貴方達、やめなさいよ。つまらないこと言ってさ!」
クラスメイトの一人が、二人を咎めた。
 「何言ってるんだよ。まるで僕らが意地悪を
しているみたいじゃないか。そんなんじゃないよ。
外野は黙っててくれない?」
 ジェイミー達はやめなかった。蛇のように執拗だった。
 「ねぇ、ミミリちゃん。美術眼のない僕達にも分かるよう
説明してくれないかなぁ?」
 「そうよ。落書きなんていって失礼したわね。
下書きとかなんでしょう?」
 ミミリは何も答えず、黙々と絵筆を振るった。
 無視されて、相手にされないことに憤ったのか、
ジェニーがミミリの手から筆を取り上げ、床に叩きつけた。
 それでもミミリは、何のリアクションも示さず、黙って床に
打ち捨てられた筆をとろうとした。
その時、ジェイミーが足を振ろし、筆をぐしぐしと踏みにじった。
 「おっとー、ごめん。足がすべっちゃたよぉー」
 ミミリの中で、『何か』が切れた。

 「…fu…k…」

 彼女にとってそれはとても許せないことだった。
両親との繋がりである、絵を描くという行為を蔑ろにされる事ほど
ミミリにとって許せないことは事はなかった。
 なにより、二人の行いは”度を越していた”。

 「…る…な」
 「え?」
 「…ふざけるなぁっ!」
 ミミリは、口から怒声を迸らせた。
拳を振り上げ、目にも留まらぬ速さでジェイミーの
顔面に叩き込んだ。
 殴り飛ばされたジェイミーは椅子を巻き込んで床に転がった。
起き上がろうとしたジェイミーに向かって、ミミリは二発目の拳を
再び顔面に叩きつけた。強く、床に打ち付けられるジェイミー。
 けたたましい音が美術室に響き渡り、始終を見ていた
生徒たちは突然の出来事に驚き、湧き上がった。
 ジェニーがミミリを制止しようとしてきた。
その腕を掴んで、投げ飛ばしてやった。
 『びたぁん』と小気味のいい音が響き、
ジェニーは気を失い、昏倒した。
 ミミリは、倒れたジェイミーに馬乗りになって殴り続けた。
やめてと言っても殴り続けた。気の済むまで延々と。
教官たちが止めに入るまで延々、延々と。
 これが、ミミリが人に向かって拳を振り上げた
最初で最後の出来事だった。

 もちろんその後、教官に呼び出されこっぴどく叱られ、厳罰を受けた。