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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)

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しどろもどろになって、ごにょごにょと言い淀んだ。
 「あ…あのぅ、その…」
 「あぁん!?何言ってるかわからねぇよ!ハッキリ言えよ、おぉい?」
黒髪が、いらついた様子で、ミミリの頭越しに掌を叩きつけた。
 「ひっ!」
 怖い。
怖いが、謂れの無い事で汚名を被せられるのは御免だった。
ミミリは、ほんの少しだけ勇気を出して弁解した。
 「ひぅっ…!だって、その…私がやった…わけでは」
 「そうだよ」
 「え?」
 ミミリは不意の肯定に驚いた。
口答えしたことで、更に凄まれるのではないかと思っていたからだ。
 「そのとおりさ、”お前のせいじゃない”。”お前がいるせいなんだよ”。
なにもかも、ケチがつくのもさぁー。お前がいる所に限って、妙なとばっちりを
受けるんだよ。いつも、いつも、いつもさぁー。
普段は完璧な俺がさ。こりゃ一体どういう事なんだ?」
 「そんな…しりません…そんなの」
 「まぁー別にどっちだっていいんだよ。これは、スッキリする為の『儀式』さ。
俺達は君をいたぶる役。君はいたぶられる役。わかる?オーライ?」
 「だから、ここに来てもらったの。だれの目にも入らない、
届かない。離れた場所で、ね」
 「大丈夫。ちゃぁんと、目立たない所に”刻んで”あげるからさぁ」
 「そうそう。ちょっとした『印』を刻むだけ。背中とか、お腹とかにね。
アンタは私らのオモチャだっていう『印』をねぇ〜」
 そう言って、二人は懐からサバイバルナイフを取り出した。
 ミミリの顔から、血の気が引いた。
 あの鋭いナイフの切っ先を使って、
彼らは自分の体に傷をつけると言っている。冗談じゃない。
 いやだ。いやだ。
怖い。怖い。やめて!やめて!!――

 黒髪が丸く目を見開き、ナイフの腹でミミリの頬をぺしぺしと叩いた。
 「じゃぁ、はじめよっか。はじめるね。
ね、いいよね。いいよね?い・い・よ・ね!?」
その言い回しに、どこかしら狂気じみた物を感じた。
 それが、更にミミリの恐怖を煽り立てた。
 赤毛がミミリの上着をたくし上げ、背後から羽交い締めにした。
最早、逃げることなど出来ない。
 ナイフの切っ先が、ミミリのむき出しになった柔らかな肌に迫った。
 「ひぃっ…。いや…やぁ…やだぁ…ゆるひて…ゆりゅひてぇ…」
こうなってしまっては、ミミリに出来ることは涙を流し、恐怖に怯え、
懇願し、全てが終わるのを待つことだけ。

 その時だった。
横から飛んできたのは――
 「うらぁーーーー!」
 「ごぇふぅッ!?」
 見事な飛び蹴りが、黒髪の横っ面に刺さった。
彼は、ごろごろと地面に転がり倒れ込んだ。
 ――ナズナだった。
 「ミミリに何してんのよ、アンタ達ッ!!」
 「ナ…ナズナ・Z・スイートピー!?」
赤毛が、驚いた表情で狼狽えた。
 「アンタ達。これ以上この子に何かしようってんなら、
ただじゃぁおかないわ。私の格闘技術の高さはご存知よね。
嫌って言うほど、格技の時間で教え込んだ筈だけど?」
 本人の言う通り、ナズナは格闘術のプロフェッショナルだった。
今は亡き、武術の師範であった両親に幼い頃から手ほどきを受け、
みっちりと技術を叩き込まれ、その技を受け継いでいた。
ナズナは、生粋の武術家だった。
 寮舎の裏から、ぞろぞろとナズナの友人たちがやってきた。
 「く…!ちくしょう」
 「あんた、覚えてなさいよ…」
 「覚えちゃいないわよ、こっちは。早く失せなさい」
二人は不利と見るや否や、すごすごと退散して行った。
 「大丈夫、ミミリ?」
 「は…はい。すいません。あ…ありがとうございます」
 安堵感に包まれ、ミミリはへなへなと腰砕けになって
その場にへたりこんでしまった。

 こうした事は一度ではなかった。
何度、ナズナや、その友人達に助けられたことか。
 ミミリは、とても惨めな気分だった。
 ――いつも守られてばっかり。
自分はなんて弱くて、意気地無しなんだろう。

 目に見える暴力ならまだ良かった。
ミミリに悪意を持って接してこようとする連中の手管は、
直接的なものから、陰湿なものへとシフトチェンジしていった。
 体を痛めつけるよりも、精神を傷めつける事のほうが
効率的だと、彼らは本能的に理解していたのだ。

    * * *

 あくる日のこと。その日は、月に一度叔父ユリウスからの
手紙が来る日だった。
 郵便物の類は、集配係りの職員が直接部屋に届けに来てくれる
ことになっている。
 ところが。
 「え?無くした」
 「いやぁー、本当に申し訳ない」
集配係のおじさんは、両の掌を合わせて拝み倒した。
 「事務室から持ち出した時には全部あるの確認したんだけどなぁ。
おかしいなぁー、どこで無くしたんだか…」
 「心当たりなどはありませんか?」
 「そうだなぁ――」

 ミミリは、手紙を探しに教育棟の舎内を歩きまわっていた。
叔父から送られてくる手紙の封筒は決まって。
――おじさんが言うに、二つの教育棟を隔てる中庭で一回、
郵便物が入ったバックを降ろした時に、生徒に話しかけ
られたという。
 バックから目を離したのはそれ一回こっきり。
その時が怪しいとのことだった。
中庭の中央には噴水広場があり、それを中心にして円放射状に
植え込みと花壇が広がっている。
 ミミリは中庭の隅から隅まであちこち探して回ったが、手紙は
見つからなかった。
 諦めて両に引き返そうとしたその時、背後から声が掛った。
 「ねぇ、もしかして。探してるのってこれ?」
 ミミリは声の方向に振り返った。そこにいたのは、姿形もそっくりな
群青色の髪を持つ長身の男女の双子だった。
 彼らは、四期生のデルフィニウム『姉弟』。
姉がジェニー。弟の方がジェイミー。
 マジェスターの中でも珍しい、ニ卵性の双子だった。
確か、デルフィニウム属の能力は――
 
 「この手紙じゃないのかな?ミミリ・N・フリージアさん」
ジェイミーは、右手に青い封筒を持ってヒラヒラさせた。
 「あ、そうです。見つけてくださったんですか、ありがとうございま…」
ミミリがジェイミーが手に持った手紙をとろうとした時。
 ひょい。と、ジェイミーは封筒を持った手を上げた。
 「おやおや、ちょっと待ってよ。誰も返すとは言ってないだろう」
 「ふふふふ」
悪戯っぽく言うジェイミーを、ジェニーは後ろから
クスクスとほくそ笑んで見ている。
 「ちょっと、意地悪しないで下さい。お願いします」
 ミミリは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて手紙を取り戻そうと躍起になった。
さすがに、自分より背の高いジェイミーが手を高く上げては届かない。
 「はははは。やだよー、ほら」
ぴっと、手首にスナップを効かせジェイミーはジェニーに向かって
手紙を放り投げた。
 「ナイスシュート。ほらほら、こっちよ。おチビさん」
手紙をキャッチして、ジェニーが小走りした。
 「やだっ!ちょっと待ってください。待って!」
 双子達は、ミミリが困る姿を見て面白がっていた。
彼らは、意地悪な悪戯をして、相手のリアクションを見て楽しむ
タイプの悪ガキどもだった。
 デルフィニウム属の能力は、透視・暗視・遠視。