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この手にぬくもりを

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 大きな声を出した後の、不思議な高揚感が、まだ胸に残っていた。
 暗く寒い廊下を抜けると、目もくらむ程ライトアップされた場所に着いた。場内には見学者たちが静かに佇立している。
 一段と煌々と照らし上げられたその階段の先は、文字通り最後の舞台であった。
 しかし、それらの光景にはすでに関心が沸かなかった。最後に目に焼き付けるに値する眺めではない。
 点呼をとるかのように告げられた自分の名前に、ほぼ無意識に反応し、階段に向かって進む。一段目に足をかけた後、彼は目を閉じた。室内のきつい照明が、視界を赤く染める。
 怖くはなかった。
 しかし、自分という存在が、あと数分でこの世からすべて消えると考えたら、その瞬間こそが、とても罪なことのように思えた。
 何でもないはずだった。これは一つの事務に過ぎない。
 行う側にとっては、ただの処理でしかない。
 行われる側にとっても、些細な一つの出来事だ。
 こうやって、黒い布を被り、首に縄を巻き、あとはこの足元の床が開くだけの、それだけのこと。
 だけど一つだけ、祈ってしまう。
 せめて今、この瞬間に、彼女が泣いていませんように。
 最後に望むには、ささやかなようで、果てしない願いだと思う。
 彼女が泣くのは、いつだって自分のせいなのだ。
 何一つ約束も守れないで、願いも叶えてやれないで、どうして最後に、笑ってなんかくれるだろう。
 最後に会った時の、目に涙を湛えながらも、必死に笑おうとしていた痛ましい顔が、目に浮かんだ。

 ────裁かれる罪があるとしたら、このことだ。

 その時、耳を覆いたくなるような大きな音と共に、足元から地上の感覚が消えた。

 最後に見えた最愛の人の顔は、笑っていた。
作品名:この手にぬくもりを 作家名:くりはら