シャルラロハート 第一幕「少女と騎士(ドール)」
まず最初のターゲットは一番こちらに近い敵だ。どのように切り込むべきかイメージが頭の中に伝わってくる。
イメージに従い、走りこみながら溢れんばかりの力を込めて剣を振るった。直撃をまともに喰らった化け物は、その身を上半身と下半身の二つに分け崩れ落ちる。化け物の死体は発火し、凄まじい勢いで燃え尽きた。
それを視界の端で確認しながら、まるで敵を“斬る”というより、チーズをナイフで“切る”ような感覚に近いことに暁は驚く。
これがローゼの力、ということか。
もしかしたらこの場を上手く乗り切る事ができるのかもしれない、と暁は考える。
しかし、目の前で仲間を真っ二つにされた敵は怯む気配は無い。
次に敵は三体同時にこちらに飛び掛ってくる。再び頭にイメージが伝わってくるとそれに従い剣を構える。
左手を柄に添えながら右手で剣を左肩の上辺りに持っていく。刃の角度を調整、左脚を軸にし、瞬時に右脚へと軸を移しながらその勢いを利用し、左から右へのなぎ払いを放つ。
ローゼの肢体から繰り出される強烈な衝撃と斬撃に襲われた三体はその身をバラバラにしながら大きく弾け飛ぶ。
『上出来ね』
「あんたのフォローのおかげだ」
すぐさま体勢を整えると武器を構え直す。暁は一番近い敵との距離を測り、身体を深く沈みこませると飛び出した。
敵との距離を一気に詰めると首の根元を掴み、首に刃をつきたてる。そのまま力任せに引き裂いた。返り血でも浴びるかと思ったが噴き出してきたのは黒い煙だ。
そんなことは構わず、後ろから切りかかろうとする不届き者の輩の脳天を振り向きざまにかち割る。
気がつけば化け物の残りは二体だ。
しかし、こちらと距離を取ろうとし、無闇に攻撃しようという意志は見えない。
「これは・・・・・・。奴ら逃げるつもりか?」
『みたいね。だけど彼らには慈悲をかけても意味が無い、ということだけは伝えておくわ』
慈悲をかけても、という部分に深い意味があるようだがとにかく今は彼女の言う通りにする。
剣を逆手に持ち替えると飛び込み、強烈な斬撃を叩き込む。二体はそれを分かれて回避する。ローゼの斬撃により二体がいた箇所の地面は大きくはじけ飛んだ。衝撃により浮かび上がるレンガと砂利が視界を乱舞する中、体勢を立て直しつつ暁は目標を捉えようと目を動かす。奴らは別々の方角へと逃げ出そうと移動しているのが確認できる。
逃がすまいと思い、一番遠くの目標に対して右腕に限界まで力を込めると剣を投擲する。そのままもう一体に向けて体全体を使い大きく跳躍を行う。
剣が敵を貫く音を聞きながら残りの一体へと飛び掛る。
だが、跳躍の勢いが足りなかったせいか、上手く避けられてしまいバランスを崩す。
ローゼは着地と同時に地面に片膝をついてしまう。一時的に動けなくなった暁に対して化け物は刃物と化した腕を切り離し、投げつけた。
立ち上がり、防ごうとするものの肝心な剣が無い。
「ッ!?」
まともに喰らってしまった。左肩辺りに強烈な衝撃が伝わり、その後に鋭い痛みが走る。
作品名:シャルラロハート 第一幕「少女と騎士(ドール)」 作家名:ますら・お