シャルラロハート 第一幕「少女と騎士(ドール)」
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『いい顔つきね。昨日とは全然違うじゃない、何かあったの?』
「まぁ、一応は覚悟が決まったってところさ」
『そう。さぁ、行くわよ』
ミラの提供する敵の位置の情報から作戦を組み立てつつ、意識を目の前の敵に集中させる。姿勢を低くすると、地面を大きく抉るように蹴ってローゼは飛び出した。
敵はすぐさま5〜6体程で壁を作り、腕を刃に変形させ足並みを揃えて突撃してくる。ローゼはそれでも構わず壁の真ん中へと突っ込む。
跳躍の勢いを殺さずに目の前にきた相手の一人の顔面に左膝を叩き込む。それは速度と角度が全て完璧に決まった強烈な膝蹴りとなる。
何かが砕ける湿った音と共に化け物の首は千切れ飛んだ。
空中で身体を右に捻りつつ敵の壁の後ろに着地する。着地する頃には自分の前面が完全に敵の背中を捉えている。
右手に力を込めて横に一気に剣を振り払う。
残りの化け物はその身を横一文字に裂かれ、黒い煙を撒き散らしながら崩れ落ちていく。
しかし、敵の絶命を確認している暇は無い。
「優華、俺が敵を倒したら構わず走り抜けるんだ。道は俺が確保する!!」
優華が頷くのを合図にローゼは敵へと斬り込む。
次々と襲いくる敵の攻撃を受け止めつつ優華が逃げるための道を確保する。
優華は何も言わずにローゼが作った空白地帯を残った力を振り絞って走っていく。
『頑張ってるじゃない』
「当たり前だ!優華を失うわけにはいかないんだよ!!」
『なるほど、彼女が貴方にとって守りたい大切な存在なのね。あ、前から来るわよ』
腕を馬上槍のように太い円錐状の物体に変化させた敵が突きを繰り出してくる。ローゼは身体を右にずらしつつ左腕を横に伸ばす。そして、自分の横を通過するタイミングを見計らい一気に左腕で槍を抱え込む形で掴んだ。
「うおらぁぁッ!!」
身動きの取れなくなった敵の胸に強烈な突きを放つ。
胸を貫かれ絶命した敵の遺骸を蹴り飛ばし、視線だけを動かし優華を追う。もう少しでこの包囲網を抜け出せる位置にまで来ている。
もう一押しだと思いつつ跳躍し、優華の真上を通り過ぎると目の前の敵を薙ぎ払いで吹き飛ばす。
『凄い……』
ミラから感嘆の声が聞こえてくるが、暁には聞こえてないようだ。
確かに暁の鬼神の如き戦いは感嘆に値するものだ。圧倒的な力で化け物どもを次々と屠っていく。
「これで最後ッ!!」
斬撃は敵を捉えた。化け物たちの包囲網に穴が開いた瞬間だった。優華はローゼの作った穴から上手く包囲網を抜け出すことに成功する。
それと同時に戦意が落ちているのか、敵がこちらに積極的に攻撃を仕掛けなくなってきている上に、逃げ出していく個体も見受けられた。
『敵が下がっていくわ。でも今は深追いはダメよ、彼女を助けるのが最優先目標でしょ?』
「ああ、勿論そのつもりだ。敵が下がるなら好都合だ」
了解、という意志と共にミラから左腕のコントロールを貸せとの要求が飛んでくる。暁はそれに従い、左腕をミラに預ける。左腕が自分の意思でないもので動いていくのに違和感を覚えるがそこは仕方ない。
光が左手の掌に溜まっていくと小さな球状の物体を構成する。一定まで光が溜まったのを見計らい、そのまま地面に叩きつける形で投げた。
地面に衝突すると同時に凄まじい閃光と爆音が辺りに立ち込め、残っていた化け物たちは怯む。
これは一種の目くらましだ。
視界が戻ると化け物たちの目の前からローゼは消えていた。
残された奴らは首をかしげながら辺りを見渡す。しかし、あの騎士がどこにもいないと悟ると何もなかったかのように次々と音も無く立ち去っていった。
作品名:シャルラロハート 第一幕「少女と騎士(ドール)」 作家名:ますら・お