青い夕焼け
そんな考えを振り払うように、黒板の白っぽい帯を消し、肩にかかった粉を掃うと、望月優美を振り返る。まだ日誌を書いているところだった。
「どう?進んでる?」
私は歩み寄ると、彼女の座る席の前にある椅子に座って、日誌を逆の向きから眺める。半分ほど、細かい文字で埋まっていた。
「へぇ、字、きれいなんだね」私は、素直に感心した。
「ありがとう、そんなこと、初めて言われた」望月優美は、そう言いながらもシャーペンをすべらせる手を止めない。
「いやいや、ほんとだって。もっと自信持ちなって」最後の一言は、余計だったかな、と言ってすぐに思った。タイミング、ちょっと不自然だったし。
望月優美は書く手を止めると、私を見て笑った。
「ありがとう、そんなこと、初めて言われた」今まで見たどの笑顔とも違う、本当に嬉しそうな顔だった。
私は、ちょっと驚いてしまって、
「それはさっきも聞いたってば」と言って視線をそらした。この子、ちゃんと笑えるんだ。あたりまえのことなのに、未知のものを発見したような高揚感があった。
でも、彼女の次の一言で、そう思ったことも忘れて唖然としてしまった。
「私ね、本当のこと言うと、望月さんのこと、ちょっと苦手だった」