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青い夕焼け

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少し前に、学級委員を決めるHRがあった。昼休みに会議が入ったり、イベントがあるたびに雑用として駆り出される役なんて誰もやりたがるはずもなく、立候補が出ないまま硬直状態が続いた。
そして、お決まりの流れではあるけれど、打開策として推薦を募ることになった。こういうのは適材など問題ではなく、押しつけやすいやつをみんなでヨイショするのも、また恒例だ。そして、その標的に望月優美が選ばれた。
望月さんなら真面目だし、望月さんなら有能だし、望月さんなら、望月さんなら。
クラスメイトたちの、笑顔にくるまれた押しつけがましさや身勝手さを、望月優美はどう感じていたのかはわからない。
困ったように笑って、小さく頷いたことは今でも覚えている。
おかげで硬直状態だった決めごとも終わったから感謝しているといえばそうなんだろうけど、それ以上にバカだなと思った。
「そんなことしてて、ハゲないわけ?」
「えっ」
私の脈絡のない一言に、かなり面喰ったようだ。黒板消しと自分の肩にたらしたみつあみを交互に見比べている。おおかた、チョークの粉には脱毛作用があるとでも受け取ったんだろう。
私はもう一度ため息をつくと、黒板を消しながら、
「ほら、机なんていいから、日誌書いてよ。それが一番時間かかるんだから」と急かした。
背中越しに、急いで日誌をひろげている気配が伝わって来る。
ほんと、なんでそんなにいちいち人の反応、気にするかな。
実際に口にしようとして、やめた。なんとなく、答えが聞きたくなかった。
もっとも、どうせまともに答えられやしないだろうけど。
そんなに真面目に拭いてるつもりでもないのに、白い粉はどんどん降ってくる。たしかに、こうなることを知ってたら、事前にやりたいなんて言わないね。私なら。
あの子は、粉をたくさんかぶることを知っていて、それで私にやらせなかった。
そう思うと、前より望月優美を疎んじる気持ちが薄くなった。
それはたぶん、彼女の優しさに心打たれたからじゃない。
そうまでして人にほんの少しだって嫌われないように徹底する、その臆病なさまを否定することができない部分が自分にあることに気づいてしまったからなんだと思う。
私は、よく友だちにアメリカ人みたいだと言われる。なんでも白黒つけたがるし、曖昧な言い方やまわりくどい表現は苦手だ。
自分の主張ははっきりする方だし、人に気を使うあまりに言いたいことを我慢するなんて、ばかげていると思う。
でも、私も一応女子高生として生きていくにあたって、必要最低限の協調性を持たなきゃならないことくらい知っている。
それはつまり、自分の言いたいことを我慢して集団に従うことであり、思ってもいないことを言わなきゃならないことであったりする。
中学時代に、それを学んだ。ちょっと高すぎる授業料を払う形で。

作品名:青い夕焼け 作家名:やしろ