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お酒臭いおじいちゃん

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 お坊さんの難しいお経をぼんやりと聞きながら、おじいちゃんのことを考えた。
 思い出すのは、お酒臭いおじいちゃんじゃなかった。
 海に行く時には必ずついてきてくれたおじいちゃん。
「一人で大丈夫じゃけー。」
 そう言っても、
「危ないから、いかん、いかん。」
と言いながら、一緒に海まで歩くおじいちゃん。
 海といっても、海水浴場みたいなきれいな場所ではない。夕方になるとあっという間に潮が満ちてしまうような小さな場所だ。
 おじいちゃんは、ステテコに麦わら帽子、片手に釣竿といった、漫画の登場人物みたいな格好で海に行く。
 釣竿を持ってるけど、魚を釣り上げているところは見たことがない。
 私が波打ち際で遊ぶのを、にこにこしながら見守ってくれる。おじいちゃんがいるから、私も安心して楽しく遊ぶことができた。
 ある時、高い波がきて、足元をすくわれた時は、おじいちゃんがすごい形相で駆け寄ってきた。
「大丈夫かぁ、大丈夫かぁー」
 そう言いながら波の中から私を立ち上がらせる。泣きべそかく私の手をひいて、家まで歩く。しわしわ、ゴツゴツの手のひら。ぎゅっと握る。
 
 お酒を飲んで、大きな声を出すことがあったけど、おじいちゃんは私には絶対に怒鳴らなかった。いつも、にこにこしてる顔しか見たことがない。
 葬儀の間、思い出すのは、嫌いなおじいちゃんじゃなかった。大好きなおじいちゃんとの思い出ばかり。いっぱい、いっぱい思い出せた。

作品名:お酒臭いおじいちゃん 作家名:柊 恵二