お酒臭いおじいちゃん
お坊さんが、長い長いお経を読んでいる。たくさんの大人達が頭を垂れて、涙を流している。ポクポクと規則的な木魚の音。非日常的な、なんだか異様な雰囲気。
(おじいちゃんは、どうなっちゃうんだろう…)
「南―無―」
お経が終わると、お坊さんがこちらを振り返って頭を下げる。ありがたいお話しが始まる。難しい言葉はよく分からなかった。
でも、人が死ぬことは悲しいことだけじゃないんだというのは分かった。今日のようなお葬式という場で、亡くなった人を中心に、大勢の人が集まり、思い出話をする。縁あるもの同士が集まり、話をすることで、永遠にみんなの心に亡き人が現れる。死ぬということは、存在しなくなることではないのだ。そんな感じの話だった。
学校の先生の話よりも、真剣に聞いたし、心に響いた。
初めて、生死について、真剣に考えた。
思わず、葬儀の途中で外に飛び出した。
外は一年中変わらず潮の香りがする。海がよく見える防波堤の上によじ登った。夕陽で遠くまで波が光っている。きっとこれから一生、潮の香りのかぐたびにおじいちゃんを思い出すのだろう。
それから大人になり、結婚し、子ども二人を育てながらも、ふとおじいちゃんのことを思い出す。そのたびに、心の中におじいちゃんが現れる。
ああ、あの時お坊さんが話していたことは、こういうことなんだろうな。そう思う。
「おじいちゃん、あの時はごめんね。いっぱい遊んでくれてありがとう。」
この夏は、子どもたちを連れて、あの海に行こう。おじいちゃんに会わせてあげないとね。
作品名:お酒臭いおじいちゃん 作家名:柊 恵二