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お酒臭いおじいちゃん

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 それから3ヶ月後、おじいちゃんは眠るように亡くなった。老衰。
 初めての身近な人の死。
「おじいちゃんの葬式」と言われても全く実感が湧かなかった。
 父母は準備などで先に実家に帰っており、10歳年上の兄と私は翌日二人で祖父母の家へ向かった。
 いつもは楽しい道のりも、兄と二人きり、ほとんど会話もなく沈んだ空気だった。
 楽しみにしていた渡し舟も、気分が悪くなった。
 祖父母の家が近づくと、黒い服を着た人達がちらほら目に入る。
 白と黒の垂れ幕。初めて来る家みたいだと思った。
「お邪魔します。」
 いつもと違う雰囲気によそよそしい態度になる。大勢の大人達の中、父母の姿を見つけて、一安心する。母の顔は、顔色も悪く、目も腫れていた。気丈な母がこんな姿になるのはよっぽどなのだと、子どもながらに感じた。
「おじいちゃんの顔、見てきんさい。」
 そう促され、きれいな木の箱のそばまで兄と近寄る。そのそばに、おばあちゃんが正座して頭を垂れている。ちっちゃいおばあちゃんが、更にちっちゃい。
「おばあちゃん、来たよ。」
 声をかけると、うん、うんと頷くだけで返事はなかった。
 大きくてつるつるとした木の箱へ近寄ると、顔の部分だけ開けられている。
 そっと覗き込んだ。
 白い菊の花に囲まれた、おじいちゃん。
 いつも見る、お酒を飲んだ赤い顔じゃなかった。少し口角が上がっていて、笑いながら寝てるみたいに見えた。
「おじいちゃん、うち、来たよ。」
 声をかけてみた。けれど、返事はなかった。
「おじいちゃん。」
 それからしばらく言葉が何にも出なかった。

作品名:お酒臭いおじいちゃん 作家名:柊 恵二