お酒臭いおじいちゃん
「おばあちゃーん!遊びに来たよー!」
大きな声で祖母を呼ぶ。祖母の事は大好きだった。いつも優しくて、いつも私の味方だった。
一人でお泊りした時、寂しくて泣きだした私をあやして、結局自宅まで一緒に帰ってくれた祖母。
だから、この時も祖母に会いたくて、大きな声で祖母を呼んだ。期待して待っていると、玄関に顔を出したのは、おじいちゃん。予想通り、まだ午前中なのに真っ赤な顔。
少し、いや、かなり、がっかり。
「おぉ、よう来たなぁ、よう来たなぁ。」
にこにこ笑って話しかける、その息はやっぱりお酒臭い。思わず、顔をしかめてしまう。私を覗き込むおじいちゃんの腰は、遊びにくるたびに曲がっている気がする。
このままでは顔が地面に着いてしまうのではないかと思うくらい。
「おばあちゃんは?どこにおるん?」
おじいちゃんより、おばあちゃんに会いたいなぁ。そう思った。
「あぁ、婆さんは買い物行っちょる。」
買い物と行っても、行くとしたら大概、決まっている。食品から雑貨までごちゃごちゃしている店が、家の目の前にあった。
「ほいじゃ、うち、おばあちゃんとこ行く。」
何の気なしにそう言った。
すると、目を細めてたおじいちゃんが、眉を下げて、急に悲しそうな顔になった。
(あっ…)
と思ったが、子どもの私に気の効いた言葉は思い付かず。
気まずくて、玄関を飛び出した。
(すごく悲しい顔しとった…。)
(おじいちゃんに悪いことした。)
(おじいちゃんのことも呼んであげれば良かった)
ほんのわずかな出来事だったけど、幼な心にも忘れられない出来事だった。あの時の悲しそうな表情は今でも忘れられない。
その後、謝ったほうがいいのか考えているうちに、話しかけるタイミングを逃してしまい、どんどん時間も過ぎていった。
しかし、おじいちゃんは相変わらず、チビチビとお酒を飲みながら、にこにこと笑っていた。
作品名:お酒臭いおじいちゃん 作家名:柊 恵二