お酒臭いおじいちゃん
お酒臭いおじいちゃん
私のおじいちゃんはいつもお酒を飲んでいた。
真っ赤な顔しながら、呂律の回らない口元で、よく分からない言葉を並べ立てる。目を細め、にこにこと上機嫌だったり、そうかと思ったら急におばあちゃんに怒鳴ったり。
正直、お酒臭いおじいちゃんが嫌いだった。
私は10歳年上の兄と、父母との4人暮らしだった。母方の実家は海の近くにあり、盆と正月には必ず一家4人で、泊まりに行っていた。春休みや連休には母と二人で遊びに行ったりもしていた。
祖父母に会うことも楽しかったが、それよりも小さな旅ができることや、海で遊ぶことが楽しくてしょうがなかった。
当時、9歳の私。
お盆休みを利用して、家族4人で田舎へ来ていた。
1時間に1本の電車とバスを乗り継ぎ、ボロボロの渡し舟に乗る。今時、まだ渡し舟なんてものが存在するのかと思うが、住民にとっては重要な交通手段だった。いつか壊れるんじゃないかと心配に思いながらも、片道5分の船旅を楽しんだ。
舟から身を乗り出し、魚を探す。無愛想な船頭さんの慣れた手つきで舟が岸へ着く。
祖父母の家は海の近く。潮の香りがつねに広がっている。しばらく歩くと小さな店がポツポツとある。家族4人の先頭に立ち、一人ズンズンと細い路地を抜け、やっと祖父母の家にたどり着く。振り返ると、私以外の3人はまだ遠くをのんびりと歩いて来ているようだった。
昔ながらの平屋、一戸建て。土壁にはあちこちヒビが入っている。
インターホンなんてものなどあるわけない。傾いた引き戸をガタガタ鳴らしながらなんとか開けた。
作品名:お酒臭いおじいちゃん 作家名:柊 恵二